「ご当地ゆるスポーツアワード2019」の開催が決定しました。このアワードは全国各地のオリジナルご当地ゆるスポーツを募集し、その中からもっとも素晴らしい作品を表彰し、ゆるスポーツの正式競技として採用をしようというものです。
ただ、スポーツを作るという経験自体、皆さんなかなか馴染みが無いと思うので何回かの連載でスポーツの作り方について解説をしていこうと思っています。
一回目のテーマは「ゆるスポーツとは?」ということで、我々の開発しているゆるスポーツの定義について説明していこうと思います。
ゆるスポーツには「5LINES」という大事な5つの定義があります。
ゆるスポーツの5LINES
1.老若男女健障、だれでも楽しめる。
2.勝ったら嬉しい。負けても楽しい。
3.プレイヤーも観客も笑える。
4.ビジュアルと名前が面白い。
5.社会課題からスタートしている。
今回はこれらについてひとつずつ説明をしていきます。
老若男女健障、だれでも楽しめる。
日本での成人の運動実施率は平成30年度のスポーツ庁の調査で55%だそうです。実際この運動がどの程度のものを指すかという指標がないため、運動強度に差はあるでしょうが、逆に言うと45%の人たちが運動不足を感じたり、運動と縁がない生活を送っていると考えられます。
このような原因にはいくつかあると思いますが、大きく分けて、実施する場所や機会がない環境的要因、体力がなかったり障害を抱えていたり高齢だったりといった身体的要因、スポーツが苦手だったり嫌いだったりする精神的要因があると考えています。
この中で、ゆるスポーツは特に精神的な要因を取り除きたいと思っています。つまりスポーツが出来ないとかやりたくないと思う人に対して気持ちが変化してもらうように促す、自分でも出来るかもと思ってもらうことを考えています。
また、身体的要因に対しても同様に重要視しています。ゆるスポーツでは肢体不自由や視覚不自由の方や体力の落ちたお年寄りと一緒に出来るスポーツを開発しています。このようなときに意識をしているのはハンデをつけるのではなく、同一条件において互角の勝負が出来るようなルール設計を行うことです。
しかし、ここで勘違いしないで欲しいのはすべてのゆるスポーツが、誰でも出来るということではないということです。スポーツごとに対象年齢やおすすめできる方は違います。ゆるスポーツで大事なのは、どんな人であってもどれかは自分が出来るスポーツ、楽しいスポーツがあるという点です。
「あなたのスポーツが、必ず見つかります」。これがゆるスポーツが1競技ではなくたくさんの競技を作り続けている理由なのです。
勝ったら嬉しい。負けても楽しい。
人がスポーツに熱狂するのはそこに勝ち負けがあるからです。それは賞品、賞金がなくても関係ありません。趣味のフットサルや懇親会のボウリング大会であっても勝ちたいと思えるから熱中し、場が白熱します。
ゆるスポーツでも勝ち負けはすごく大事なポイントとして意識しています。しかし、勝ち負けが全てではない。これがゆるスポーツのポイントです。
ゆるスポーツでは、勝ち負けはもちろん存在しますが、勝ち負け以外の価値観を見出してほしいと考えています。
例えばブラックボール卓球。真ん中にある穴をボールが通過してしまうと試合としては失点になります。しかし「ナイスホール!」という掛け声があることで、本来悔しいものでしかない失点が、「おいしい」ものに変わるのです。
そして、ゆるスポーツでは勝ち負けをトッププライオリティにしないということも意識しています。ではトッププライオリティは何か?それは「全体の楽しいの総和の最大化」です。これは非常に大事なポイントなのでのちのコラムで詳しく説明をしたいと思います。
プレイヤーも観客も笑える。
私がいつも企画をするときに言っていることは、「まずは楽しいと思えるものを考えよう」ということです。
楽しいものはアレンジ次第で目的に向かわせることが出来るけれど、楽しくないものはどうやっても目的を達成させることが出来ないと思っています。
なぜなら楽しくないのものは人を惹きつけられないからです。我々がゆるスポーツを行って達成したいことは人々の行動変容です。「今までスポーツをしなかった人がしてくれる」や「今まで興味がなかった地域に興味を持つ」というのはその人の行動が変化した結果です。
そして、人が行動を起こす際に必要なことは欲求です。欲求があれば人は多少の障害を乗り越えて行動します。例えば、移動に何時間もかけて旅行をするのも、高いお金を払ってコンサートやライブに行くのもそこに楽しいがあるからです。
ゆるスポーツは普段スポーツに興味を持っていない人に対しても訴えるものでなければなりません。なので楽しい、つまり笑えるということは人を惹きつけるゆるスポーツの必須の条件と言えます。
ビジュアルと名前が面白い。
ゆるスポーツの仕事をしていると沢山のメディアの方たちに会いますが、その方たちにゆるスポーツをどのように知ったかを聞いてみるとSNSで知ったということが非常に多いです。
ゆるスポーツを最初に立ち上げたときに、みんなが他人に話したい、SNSで共有したいというものを作ろうと考えました。なぜならば昨今SNSの力が非常に強くなっているからです。
ゆるスポーツは見た目や名前が面白いがために、そこに触れた人がSNSや口コミで共有をしてくれます。それを見てメディアの皆さんが取り上げてくれます。そしてそれを見た一般の方が更にSNSや口コミで共有をしてくれるのです。
ただ、それは「ただ面白いだけ」ではダメです。皆さんが人に話したくなることはそこに納得できるストーリーがあるものです。例えばベビーバスケは「授乳ゾーン」、「過保護」、「子煩悩」という面白いワードがたくさんありますが、これは「ボールを赤ちゃんとして扱う」というメインのストーリーがあるからこそ映えるものなのです。
「ボールを赤ちゃんとして扱うからボールを持ちすぎると過保護なんだ」という納得感があってこそ、人に思わず伝えたくなるコンテンツとなるのです。
社会課題からスタートしている。
ゆるスポーツはすべての競技が何らかの社会課題へのアプローチのために作られています。
これは日本が、少子高齢化や経済的な停滞など、世界の国がいつかはぶつかる課題に先んじて直面する課題先進国だからこそ、日本で様々な課題を解決することが、今後世界中で起こりうる課題の解決方法を提示できるのではないかという考えがあるからです。
こう考えると社会課題をテーマにするのすごく大きな話に感じますが、社会課題はもっと身近なものとして捉えていいと思います。
以前、とある中学校で「課題ってなんだろう?」って質問したときに、「課題とは解決すべき問題です」と答えてくれた女子生徒がいました。すごく的確な答えだなと思いました。
では、社会とは何でしょう?私は社会とは複数人が集まるコミュニティはすべてだと思っています。つまり、家族でも学校でも会社でも恋人同士でもそこにコミュニケーションが生じる人間関係はすべて社会だと捉えています。
つまり、社会課題とは人間が集まることで発生する解決すべき問題と言い換えられます。なので「学校や会社が楽しくない」とか「家の居心地が悪い」とか「彼氏(彼女)とうまくいかない」などを解決することでも、社会課題の解決と言えるのです。
今回はゆるスポーツの基本である5 LINESについて説明をしました。
次回はスポーツを作る上で私が気をつけているポイントについて書きたいと思います。
写真:越智貴雄