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スポーツ心理学者 / ガブリエラ・ベアトリス 実戦!ゴールキーパークリニック スポーツ心理学編 vol.1『サッカー × 心理学 前編』

前回のGKクリニック「一番のトレーニングは休息である」(2022年5月8日投稿)の記事内で、”アルゼンチンにおける育成環境”の話題があがりました。

アルゼンチのトップクラブには、心理学者が常駐し、選手を心理的にサポートしているようです。クラブに常駐してる心理学者は、具体的に何をして、どのようにチームをサポートしているのでしょう?

今回のインタビューでは、ウラカン(アルゼンチン1部リーグ)やクラブ・アトレチコ・ニュー・シカゴ(アルゼンチン2部リーグ)といった、トップレベルのクラブで活動している、ガブリエラ・ベアトリスさんに話をうかがいました。

プレーヤーはもちろんのこと指導者や保護者の方にも必見の内容となっています。

今回は、全2回にわたるインタビューの1回目になります。

生年月日:1969年10月5日
出身地:アルゼンチン
経歴(一部抜粋):1988-1993 ブエノスアイレス大学・心理学部/1994ブエノスアイレス大学大学院・スポーツ心理学科/1997-現在 プライベートカウンセリング(個人開業)/2005-2007 トリレニウム・スタディー・センター(スポーツジャーナリズムスクール)において1年生と2年生の心理学教授/2017-現在 クラブ・アトレチコ・ウラカン(アルゼンチン1部) /2019- 現在クラブ・アトレチコ・ヌエバ・シカゴ(アルゼンチン2部)

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–まずサッカークラブにおける、心理学者の役割を教えてください

チームが目標を達成するために、選手たちの心理的なサポートをすることが私たちの役割です。

日々のトレーニングはもちろん、試合中や日常生活にいたるまで、選手一人ひとりの振る舞いや言動を観察します。

その中で、コーチングスタッフや選手たちとコミュニケーションをとりながら、チームとして良い結果を出すための準備をするのです。

スポーツ心理学は「試合中でいかに相手を上回るか?」ということが注目されますが、実際には違います。試合中のアプローチよりも、日々の練習や試合前の準備、試合後の振り返りの方が、大切なことなのです。

試合中に選手とじっくりと話をすることなんてできませんよね?ですので、試合中は、選手の振る舞いや言動を、注意深く観察する程度です。

試合後は、観察して得た情報を基に、選手一人ひとりの分析を行います。次の試合でより良いパフォーマンスを出せるよう個別にアプローチを行っていきます。

–日々のアプローチが、心理的な成長を促すのですね。選手やコーチングスタッフ、トレーナー、クラブで働く人たちとは、どのように関わっているのでしょうか?

選手がいつでも相談できるように、良い関係を構築しています。

練習中には私も、選手やコーチたちと共にピッチにいます。それ以外の時間は心理学のセッションを行なったり、コーチと会議をしたりします。

チーム内で問題が発覚した時や練習中に浮かない表情の選手がいる時には、監督が私に意見を求めてきます。監督が私の元へ近づき「あの選手は元気がなさそうに見えるな。彼と話してきてくれないか?」といった具合です。そのような時には、私から対象選手に話しをします。

これといって決まったやり方はなく、チームや各選手の状況次第でアプローチの方法が変わるのです。

–悩みや問題を抱えている選手と話した内容は、監督やコーチングスタッフに共有するのですか?

具体的な内容は共有しませんね。心理学者として得た情報には、守秘義務がありますから。監督によっては「いいじゃないか。彼の問題を教えてくれ!」というような要求をしてくる場合もありますが、選手のプライバシーは必ず守らなくてはいけません。

チームを勝たせるために、問題や課題を解決したいのはわかります。ですが、どのような問題でどのように解決したのかを監督が知る必要はないのです。

その代わり、チーム全体でコミュニケーションをしっかりと取り、方向性を合わせるようにしています。

–メンタルトレーナーも同じような取り組みをしているように思えます。1つ疑問に思うのですが、心理学者とメンタルトレーナーではどこが違うのでしょう?

心理学は科学であり、精神的なプロセスを研究するものです。家族環境、友人関係、恋人との関係など、さまざまな要素から判断する学問です。

そしてメンタルトレーニングとは、深層心理・注意力・集中力・感情やモチベーションなどの要素を管理・強化する手法です。これは、心理学の一部のテクニックがメンタルトレーニングということです。

もう一つの違いは、学位の有無です。心理学者は必要ですが、メンタルトレーナーには必要ありません。そこが両者を分ける大きな違いとなりますね。

メンタルトレーニングのみでの問題解決はありません。問題・悩み抱える人には、
その人の置かれている状況、これまでの人生など全てを考慮なくしては根本改善はないでしょう。

これを解決できるのが、心理学者ということです。

–メンタルトレーニングと、心理学的なアプローチには違いがあるのですね。アルゼンチンでは、何歳頃から心理学的を取り入れているのですか?

6歳くらいからです。私が面倒を見ている選手の中には、5歳の子供もいます。

彼らが心の底からサッカーを楽しんでいる姿を見ると、私まで幸せな気持ちになります。ピッチで彼らのプレーを見ていると、彼らの方から「ガビ!(ガブリエラさんの愛称)あのね!今日はこういうことがあったの!」とおしゃべりをしに来るんですよ。

6歳の時期に心理学を理解することは難しいですが、カテゴリーが上がるにつれて彼らは心理学者に心を開き、悩みや問題を解決できるよう取り組めるようになっていきます。

小どもの頃から日常的に心理学に接している彼らは、自分と向き合う方法を感覚的に理解していくのです。

–若い年齢の子供たちには何を教えていますか?

教えるというよりも、子供たちが楽しんでサッカーができるような手助けをする、という言い方が正しいですね。周囲の人や家族からのプレッシャーを解いてあげるのです。

特に、親からの過度なプレッシャーは厄介です。プレッシャーを与える親の多くは、自分が叶えられなかった夢を子供に託すケースが多いです。子どもは、親の”物”であってはいけません。親からのプレッシャーを取り除き、良いことも悪いことも経験させられるように努めています。

また、年齢が上がるにつれ、選手の注意力が向上するような取り組みも行ないますね。コーチからの指示やピッチ上での選択、社会性、他人に敬意を払うことなど、選手として必要な要素の向上を狙います。

例えば、チームメイトに悪口を言った時にはしっかりと叱りますし、人の話しをさえぎろうとした時には、挙手をして質問をするよう伝えます。グループの一員として、他人に敬意を持つ重要性を教えるのです。

今挙げたことは、良いサッカー選手になるためだけでなく、人生をより良く生きていく上で大切なことですよね。彼らの人生をより充実させ、集団でも個人でも、活躍できる土台作りをしています。

–アルゼンチンでは、なぜ幼児期から心理学を取り入れているのでしょうか?

アルゼンチンサッカーは、愛と喜び、そして文化を象徴しています。

トップレベルでプレーする選手には、多くの障害や困難があり、批判にさらされることも日常茶飯事です。そのような状況で、選手が精神的に準備できていなければ、良い結果を出すことは難しいですよね。なので、若い年代から心理学的なアプローチが必要不可欠なのです。

トップレベルで活躍するためには、精神面の安定が鍵となります。

イングランド・スペイン・イタリア・ドイツなど、ヨーロッパのリーグを見てください。強豪クラブには、少なくとも1人以上のアルゼンチン人の選手がいますよね?

それが、アルゼンチン人の困難を乗り越える力の強さと、心理面での優位性を物語っているのではないでしょうか?

アルゼンチンの選手たちは、小さい頃から精神的に準備されているからこそ、困難な状況を克服することに長けているんです。

次回へと続くTo Be Continued……(vol.2の投稿は 6/5(日)予定)

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