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INTERVIEW

Jul.08.2019
番組でなく話題を作るディレクター
伝えたいのは、誰も見たことがない風景

NHKでは、“番組を作らないディレクター”として、誰でも“プロフェッショナル”になれるアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」をはじめ、カンヌライオンズ2019のデザイン部門で、みごと銀賞に輝いた「注文をまちがえる料理店」など、たくさんのヒット企画を生み出してきた小国士朗さん。そんな小国さんに、これまでの経験で培われた考え方や、仕事で大切にしていること、そして数あるヒット企画の制作秘話について聞きました。

PROFILE
小国 士朗 (おぐに しろう)
株式会社小国士朗事務所 代表取締役・プロデューサー

2003年、NHKに入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」の企画立案や世界1億再生を突破した動画を含む、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的プロジェクトとして、世界150カ国に配信された、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018年6月にNHKを退局、フリーランスのプロデューサーとして活動。

舞台を作り、変数でドラマが生まれる

――ホールで働く従業員がみんな認知症のレストラン「注文をまちがえる料理店」も、小国さんの代表的な取り組みのひとつですが、どこから発想を得たのですか?

「注文をまちがえる料理店」を思いついたのは、2012年に介護のプロフェッショナルの和田行男さんを取材したときでした。取材を始めてしばらく経ったある日、和田さんに「“認知症の〇〇さん”って見ている?“〇〇さんが認知症”って見ている?」と聞かれて、ハッとしました。“認知症の〇〇さん”と見ていたからです。それまで僕は、認知症がその人のすべてを占め、その人自体が見えていませんでした。でも、“〇〇さんが認知症”と思った瞬間に、それはその人が持つ“ひとつの要素”になりました。

和田さんのグループホームにはNさんという認知症のおばあさんがいて、頻繁に施設を出ていっていました。僕は彼女を、“認知症のNさん”と見ている間、みんな大変だなと思っていました。でも、“Nさんが認知症”と思い始めると、彼女のパーソナルな部分を知りたくなりました。夫に話を聞いてみると、実は、彼女は元陸上部で足も速く、すごく運動神経がいいので、夫が自宅で介護をしていた時には、家から出てしまうと自転車で必死で追いかけていたという話を聞けました。なんてチャーミングな、おばあさんなんだと思いました。
そのときに「そうか。Nさんは“徘徊”ではなく“運動”をしているんだ、元気がありあまっているだけなのかもしれないな」と思えたりしました。そうなると見え方がガラッと変わって、個性がすごく立つんです。和田さんに最後に「認知症である前に、人なんだよな」と言われて、すごく納得しました。

――実際のお店を作ることとNHKで番組を作ることに、共通点はありましたか?

「舞台を作る」という考え方は同じだと思います。今も昔も、わからないことが起きて欲しいと思っていて、だからNHKではドキュメンタリーを選びました。ドキュメンタリーで予想できることを撮っても、ただの塗り絵になって面白くないわけです。怖いけど予想外が起こるのを待つ。様々な外部的変数によって、思いもよらないことが起きた時に、番組は動きだしドラマが生まれます。
それが面白いから「注文をまちがえる料理店」でも、自分がその“舞台”を作るようにしました。実際の舞台で例えると、照明の当たり具合、規模の大きさ、観客席との距離とか、そういうところを僕らが作ります。でもその先は、撮られる側、スタッフの方の自由演技なので、わからないんです。もちろん、舞台を作ることは入念に行いますが、舞台を作った後は僕自身も「何が起きるのだろう」と怖くもあり、楽しみでもありました。

――「注文のまちがえる料理店」の成功によって、小国さんの中で変化はありましたか?

NHKから独立するキッカケになりました。「注文をまちがえる料理店」は、NHKにいながら個人でやっていたので、自分の名前、自分の責任で、自分のやりたいようにやりきることができました。それが、すごく面白いと感じました。

それと、僕がやりたいのは「Television(テレビジョン)」なんだと改めて感じました。「Television」の語源に戻ると、「tele-」はギリシア語で「遠く離れた」、「vision」はラテン語で「視界」の意味です。僕はNHK時代、これを忠実にやっていて、どんな番組でも、誰も見たことがない、誰も知らない情報を、1カットでも写したいと思っていました。それは「注文をまちがえる料理店」も一緒で、誰も見たことのない風景、誰も触れたことのない価値を遠くに伝えることが、僕の仕事だと思ったんです。
つまり、これが「Television」なんです。テレビはあくまで手段で、SNSで届くならそれを使ってもいいし、イベントも然り、「NHKにこだわらなくても、どこにいてもTelevisionはできる」ということが、このプロジェクトを通して初めてわかりました。

がんとの出会い方をデザインする

――独立をしてからの試みである、がんを治せる病気にするプロジェクト「delete C」が生まれたきっかけや、実施に至る経緯について教えてください。

僕の友人に中島ナオさんという、31歳で乳がんになり、ステージ4の状態が2年続いている女性がいます。僕は、がんに対する暗いイメージを打破したいという、彼女の活動を手伝っていました。その彼女が、本気で「がんを治せる病気にしたい」と言ったことがきっかけでした。

どのような方法があるのか模索していた中で、彼女がたまたま見せてくれた名刺が、University of Texas MD Anderson Cancer Center(米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)の上野直人さんのもので、病院名の「Cancer」の文字のところにびーっと1本の線が引かれて、消してありました。それを見て「これだ!」と思い、世の中にたくさんある「C」を消そうと思いついたのが「delete C」の始まりです。「がんを治せる病気にする」という想いに共鳴してくれる意思表示として、企業の商品やサービスから「C」 を消してもらおうと考えました。
例えば、「CUPNOODLE(カップヌードル)」、「C.C.Lemon(シーシーレモン)」が「C」を消すことで、「UPNOODLE(アップヌードル)」や、ただの「.. Lemon(レモン)」になります。その商品を僕らが買い、その売り上げの一部がドネーションとして、がんの治療研究に使われるという仕組みです。

これは「買う」という経済行為なので、誰でも関わることができます。初めて彼女のために、僕にできることが見つかったと思いました。だから、本気でやりたかったんです。そこからメンバーを集め始めて、今は30人くらい集まってくれています。何もない状態から3ヶ月で、30企業の団体が参加してくれました。

――多くの人が参加してくれるために、工夫された点はどのようなところですか?

僕は、課題との“出会い方”を大事にしています。例えば、がんに対して一般的に「暗い、重い、辛い」というイメージがあり、そのせいで、がんを遠ざけたり、深く知ろうと思わなくなってしまいます。でも「C.C.Lemon(シーシーレモン)」が「.. Lemon(レモン)」になっているのを見て「なんだこれ?」と思って買ったのがきっかけで、「delete C」を知って、がんと出会えたほうが、がんに対する抵抗も少なく、自分ゴト化できると思うんです。
重いから触れたいと思わないような、がんの側面ではなく、つい笑ってしまうような入口から、がんを知ってもいいと思っています。これであれば、何回も触れていいと思ってくれるはずです。僕は「delete C」を通して、人と、がんとの新しい出会い方をデザインできたらいいなと思っています。

北風でなく、太陽みたいな施策がしたい

――「認知症」や「がん」という、センシティブな施策を進めるときに、意識していることはありますか?

僕は、かつて和田さんに教えてもらった通り、全てのことはただのレッテルであって、それ以前に人がいるから、フラットにモノづくりをしたいと思っています。認知症の前に人だし、がんの前に人なんです。だから、優しくしなきゃいけないとか、遠慮しなきゃいけないとかどうでもよくて、究極的には、この人と付き合うならどうするか、ということだけ考えるようにしています。

そして、その中で「北風と太陽」の寓話でいう、太陽みたいな施策をしたいと思っています。メディアがよくやるのは北風タイプの伝え方が多く、認知症やがんでいえば、シビアな要素を切り取って届けるきらいがあります。あの寓話がよくできているのは、恐怖訴求では、人はコートを脱がないところです。むしろ、見たくないものは、目を覆ったり、耳をふさいだりしてしまいます。
でも、笑いや、エンターテインメントであれば心を開きます。思わず笑ってしまうような、太陽のようなことをしたいと思っています。「C.C.Lemon(シーシーレモン)」が「.. Lemon(レモン)」になったら笑っちゃうよね、みたいに。メディアにいたからこそ、北風も大事だけれど、それだけじゃなく、太陽みたいな施策に取り組みたいと思うんです。

――自分のやりたいことを成功させるために、必要なことはなんですか?

声を上げることだと思います。いまは個人で生きるには、いい時代だと思っています。弱い立場の個人でも、本気で見たいと思った風景を声に出せば、それを応援してくれる時代なんです。「注文をまちがえる料理店」を実現するために、クラウドファンディングをした時は、1,300万円近くのお金が3週間で集まって、泣きそうになりました。無名な僕の見たい風景に共感して、こんなにも多くの人もお金も集まってくれるなんて、本当にいい時代だなと実感しています。「delete C」も同じです。ナオちゃんもまた無名の一個人ですが、「がんを治せる病気にしたい」と本気で言っているし、見たい風景が素敵だから、みんなが本気で賛同してくれるのだと思います。

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この記事を書いた人
松尾 怜奈
中央大学文学部3年生。 高校時代は全国3位のバドミントン部に所属していた、生粋の体育会系。 大学では、新しいスポーツ(クディッチ)を始め、アジア大会進出。 長期インターンにも励み文武両道を目指す女子大学生。好きな芸人は小籔千豊。
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