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INTERVIEW

Jul.16.2019
番組でなく話題を作るディレクター
企画とは、風景をつくること

NHKでは、“番組を作らないディレクター”として、誰でも“プロフェッショナル”になれるアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」をはじめ、カンヌライオンズ2019のデザイン部門で、みごと銀賞に輝いた「注文をまちがえる料理店」など、たくさんのヒット企画を生み出してきた小国士朗さん。そんな小国さんに、これまでの経験で培われた考え方や、仕事で大切にしていること、そして数あるヒット企画の制作秘話について聞きました。

PROFILE
小国 士朗 (おぐに しろう)
株式会社小国士朗事務所 代表取締役・プロデューサー

2003年、NHKに入局。ドキュメンタリー番組を制作するかたわら、200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」の企画立案や世界1億再生を突破した動画を含む、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的プロジェクトとして、世界150カ国に配信された、認知症の人がホールスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」などをてがける。2018年6月にNHKを退局、フリーランスのプロデューサーとして活動。

中途半端なプロでなく、熱狂的な素人になれ

――数々のプロジェクトを成功してきた小国さんですが、うまくいく企画とは、どういう企画だと考えていますか?

腹落ちさせられる企画です。僕はそれを「?」→「…」→「!」でいつも説明しています。「これはなんだろう?」から「実はね…」そして「なるほど!」のように、人が持った疑問に対して、そこにはその疑問を解消できる物語があり、そして最後に納得できる、という過程が大切だと思っています。
たとえば、「注文をまちがえる料理店ってなに?」→「実はね、レストランのホールスタッフが全員認知症の人たちなんだよ」→「なるほど!」のような。これなら説明がスッと入ってきますよね。この構成は、番組を作っていたNHK時代に培って、当時ずっとこのようにやっていました。うまくいかない企画は、フックとなる「?」がなかったり、説明する上で「実はね…」がなかったり、説明がズレているから腹落ちがしなかったりします。「?」→「…」→「!」のプロセスを経て腹落ちできる企画は、うまくいく企画だと感じます。

――いい企画を生み出し続けるために、大切にしていることはどのようなことですか?

中途半端なプロにならずに、熱狂的な素人になることです。中途半端なプロは、自分の持っている知識や概念の枠にとらわれやすく、“知ったかぶり”をします。でも、熱狂的な素人は、知識がない分、常識や概念を突破して、イノベーションを起こすのです。

そう考えるようになったのは、僕自身の反省があります。僕はYoutuberが現れたとき「こんなのコンテンツではない」と、否定的でした。でも、あれよあれよと人気に火が付き、今では、小学生のなりたい職業ランキングトップ10に入るほどです。そのとき僕は、自分が中途半端なプロになっていたと気がついたんです。
Youtuberはまさに熱狂的な素人です。彼らはなんの忖度もなく「こんな世界があったら面白い」と考えた風景を、ただ見たいがためにやっているんですよね。一方僕は、自分の持っている枠にとらわれて、彼らに「イケていない」というレッテルを貼ってしまっていました。本来であれば、Youtuberの熱狂ぶりに気がつかなきゃいけなかったし、彼らを面白いと思わなくてはならなかったのです。そんな自分が格好悪いなと感じました。

だから、僕は中途半端なプロではなく、熱狂的な素人でいたいと思っています。自分の見たい風景を貫くことがイノベーションの原動力になるんです。ただ、熱狂していないと、辛いことがあったときに、途中で挫折してしまいます。だからこそ、みなさんにも「熱狂的になろう!」と言いたいですね。

意地でも着地させる、それが面白い

――プロジェクトを成功させるために、小国さんはどんなところを意識していますか?

企画を着地させるために、フルスイングをすることです。僕は企画力よりも実行力、つまり、着地力のほうが重要だと思っています。企画を作ることができる人は比較的いるのですが、着地がなかなかできません。着地させる事が一番難しいんです。なぜならば、飛んでいる間はすごく楽しいですが、着地し始めてから終わる瞬間までに、たくさんのリスクが生まれるからです。
でも、物事を着地させることは、リスクがある分、生きている実感があって面白いんです。そして、着地させられるかどうかで、すべての状況が変わります。それによって、次につながるかが決まるわけです。だから、自分がバカになってでも、フルスイングをして、とにかくやりきることです。意地でも着地させています。

――小国さんが、プロジェクトを通して実現したいことは何ですか?

みんなが驚くような風景を作って、それでみんなを揺さぶりたいです。僕の考えは “Don’t think. Feel”。みんなには考えないで、感じて欲しいと思っています。本当に豊かな世界というのは、たくさんの解釈ができる幅があるものだと考えています。だから、まずは感じてもらって、どう解釈するかは受け手に委ねるようにしています。
僕のプロジェクトにおいて、僕の口から出る解釈は色がつきすぎてしまい、受け手の主観を消してしまうから、極力言いたくないんです。思っていることはもちろんありますが、ほとんどどうでもよくて、それよりもとにかく風景に触れて欲しいんです。目的よりも何よりも、僕がこだわっているのは、「ただ風景に触れて感じて欲しい」ということだけなんです。「みんながこの風景を見たらビックリするだろうな」と、みんなの既成概念を揺さぶって、驚かせたいんです。そんな風景を作るためなら、なんでも差し出す覚悟で取り組んでいます。

飛び出すより、はみ出せ

――小国さんにとっての「仕事の流儀」はなんですか?

2つあって、1つ目は「風邪をひくなら休みの日」です(笑)。
平日に風邪をひいてしまったら、何もできなくなるからダメなんです。なので、平日に風邪をひかないように頑張っています(笑)。

2つ目は「自分の心に嘘をつかない」ことです。
自分に嘘をつくと、自分が一番苦しいんです。「頑張っています」とか「これ、面白いです」とか、本当は思っていなくても言えますよね。でも、嘘をついている自分は、自分で絶対わかるんですよ。周りの人がどんなに「頑張っているね」とか「面白い」とか言ってくれても、自分の中では、面白くないと100%わかっているんです。だから、僕は自分の心に嘘をつかないで生きています。それが、僕が一番大切にしていることです。これをできると大概楽しいんです。

――最後に、自分のやりたいことがあるのに踏み出せずに悩んでいる人たちに、アドバイスをお願いします。

「飛び出すより、はみ出せ」ということを伝えたいです。これは、どの組織に所属していても当てはまることです。軸足があれば、いざという時にどちらかに逃げ込めるので、ノーリスクなんですよ。例えば僕の例で言うと、「はみ出す」というのは、NHKから電通に企業留学をしたことです。NHKにいるときは「僕、電通なので」と言えるし、逆も然りです。どちらの組織からも責められないので、状況をうまく利用して好きなことができました。また、それぞれの組織のメタ認知ができるようになります。そうすることでNHKと電通、それぞれの良さがわかり、さらに人脈も広がりました。それを繰り返していると、いつか「飛び出せる」ようになります。
組織でも、企業でも、どこでも戻れる場所があるのなら、まずは、はみ出してピボットする、それを積み重ねていくことで、自分がどこまで行けるのかがわかり、そのうち「飛び出せる」ようになっていくと思います。

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この記事を書いた人
松尾 怜奈
中央大学文学部3年生。 高校時代は全国3位のバドミントン部に所属していた、生粋の体育会系。 大学では、新しいスポーツ(クディッチ)を始め、アジア大会進出。 長期インターンにも励み文武両道を目指す女子大学生。好きな芸人は小籔千豊。
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