–昨年、イタリア代表は下馬評を覆し、ヨーロッパチャンピオンになりました。ユーロ2020で優勝できた理由は何だと思われますか?
マンチーニ監督が就任してから行なっていた取り組みが実ったのが理由だと考えています。決勝トーナメントではPK戦もありましたが、それもサッカーの一部です。イタリア代表がチームとしてまとまってきたからこそ、ヨーロッパチャンピオンになれたのでしょう。
もちろん、運にも恵まれていたと思います。しかしこれまでのイタリアとは違い、攻撃的でテクニカルなサッカーをピッチで表現できました。守備的なイメージが強かったイタリアが攻撃的なスタイルに変貌を遂げ、勝ち取った勝利には大きな意味があります。
–2018年のW杯の予選敗退後、ヴェントゥーラからマンチーニに監督が代わり、どのような変化がありましたか?
マンチーニ監督が、イタリア代表に新しいサッカーの哲学を植え付けました。これまでの、守備戦術に重点を置いて「1-0で勝つ」スタイルを変え、より攻撃的なサッカーを展開しようと試みたのです。
昔ながらのカテナチオを捨て、現代サッカーに必要なスピード・ボール保持を重視しています。
このような取り組みの中で、代表に名を連ねる選手の特徴にも大きな変化がありましたね。フィジカルと守備力が優れている選手よりも、技術が高くチームメイトと連携をしながらプレーする選手を多く代表に選出し始めました。
そして、技術が高い選手たちに合ったスタイルを作り上げる決断をしたのです。
もちろん最初は批判もありましたし、うまくいかないこともありました。しかしそういったことは、変化にはつきものですよね。同じ時期に、技術的に優れている選手たちがヨーロッパのトップチームでプレーするようになったことも変化を遂げる大きな要因です。
より激しい攻防が繰り広げられる中盤には、これまで守備的な選手が好まれていました。
しかしマンチーニ監督はそのポジションに、テクニックとゲームビジョンに優れ、攻撃的にプレーする選手を起用するようになりました。
名前を上げると、ジョルジーニョやヴェラッティ、バレッラといった選手たちです。彼らは中盤で動きながらボールを触り、ゲームの局面を読みながら、能動的なプレーができます。このようにボールキープできる選手たちを中心にチームを作りあげてきました。
そして、この選手たちに加え、スピードとフィジカルのある選手を組み合わせました。ディ・ロレンツォやスピナッツォーラ、キエーザなどです。
この変化はアンダー世代の代表にも行われ、イタリアサッカー全体の方針が変わっていきました。
幸運だったのは、技術的に優れた選手の積極的な起用を行っても、キエッリーニやボヌッチ、フロレンツィといった伝統的なイタリアに見られる、規律や戦術眼、経験を備える選手も起用を続けたのが、イタリアの成功の要因だと考えています。
昨年のイタリアは、まさに伝統と革新が上手に噛み合ったチームでしたね。
アンダー世代に指導を行うシモーネ・ファビオ氏
–イタリアのサッカーを変えたマンチーニ監督の凄さはどこにあるのでしょう?
選手の特徴を把握し、それぞれの良さを組み合わせることができる力です。全ての選手とコミュニケーションできる能力が特に素晴らしいと思います。
マンチーニ監督は、選手たちに自身のアイディアを正しく植え付け、個々の特徴を上手く活かしたチームを作りました。
代表チームで、選手と監督が共に過ごす時間は限られています。短い時間の中で選手の特徴を理解し、選手の特徴同士をうまく組み合わせたスタイルを作り上げなければ、強いチームを作ることはできません。
彼は個性的な選手をうまく上手く1つのチームとしてまとめ上げたのです。さらに彼はどの選手に対しても、チームにとって大切な選手である、という接し方をしていました。
特定の選手を特別扱いすることはなく「全ての選手が同じように重要」であることを言葉ではなく、行動や振る舞いで伝えたのです。
それがイタリアのチーム力の土台となり、ユーロ優勝という大仕事を成し遂げられた要因なのではないでしょうか。
–ここ最近のイタリア代表は、過去多くのサッカーファンが持っていた「守備のイタリア」というイメージを覆し、攻撃的なスタイルで戦っていますよね。なぜ、守備的なスタイルから攻撃的なスタイルへの変革を行ったのでしょう?
私たちが表現するサッカーは変わりましたが、守備的なスタイルを捨てたわけではありません。現にイタリアの守備戦術は、世界的に見ても未だにトップレベルですし、選手に要求する戦術理解度もかなり高いです。
スタイルを変更した大きな要因は「選手が持つ特徴」の変化にあります。イタリアが守備で名を馳せていた一昔前は、フィジカル的に優れていて戦術理解度が高い選手が多く、技術的に優れた選手は数人しかいませんでした。
しかし現在のイタリア代表には、技術レベルが高く、ボールを保持している時に良さが出る選手が多くいます。
そして、そのような選手たちがヨーロッパの高いレベルで活躍しています。
代表監督の仕事は、チーム内の選手たちの特徴を活かしたチームにまとめあげることです。
自分たちの伝統を貫くよりも「選手の特徴を活かす」ことを選んだのです。
ボールを保持するスタイルは、観客の立場からしても魅力的ですよね。
ゲームを支配できる時間が長くなるにつれ、より創造的なプレーを見る機会も増えます。過去にもトッティやデルピエロのような創造的な選手がいましたが、そういった選手はチームに1人、2人しかいませんでした。
現在の代表チームには、トッティやデルピエロのように飛び抜けて技術の高い選手はいませんが、技術レベルの平均値は、過去のイタリア代表と比べてもかなり高いでしょう。
特定の誰かに頼るのではなく、技術レベルが高い選手をうまく組み合わせることにより、創造性のある選手たちが相乗効果を生むようなスタイルへ移行できた、という形ではないでしょうか。
–現在のイタリアは、不可解な状況にあります。ヨーロッパチャンピオンでありながら、2大会連続でワールドカップ出場権を逃しました。この状況をどう考えていますか?
イタリアが2大会連続でW杯に出場できないなんて誰が想像したでしょうか。しかも今回は、ヨーロッパチャンピオンでありながら、W杯出場を逃してしまいました。しかし、これがサッカーの面白いところでもあると思います。
重要な試合では優れた選手であっても、悪いプレー1つで負けてしまいます。
いつ何が起こるかわからないことは、サッカーの美しさでもあります。
昨年の夏は、イタリアがW杯チャンピオンに返り咲く話題で持ちきりでした。ユーロで優勝したのですから当然ですよね。
しかし現状の私たちは、W杯に出場すらできないという状態です。
この経験から「サッカーにおいて、どのようなチームにも補償はない」ということを学びました。世界のトップを狙うには、常に良いプレーをして勝ち続けることが求められます。
私たちがすべきだったことは、上手くいった過去を捨てずに、過去に作り上げたものをより成熟させることです。さらに、マンチーニ監督の哲学をA代表のみならず、アンダー世代にまで浸透させる必要がありました。
哲学を浸透させることは、1年や2年で形作れるほど甘くはありません。
何年も時間をかけて、イタリアサッカーの土台を再構築する必要があります。
–イタリアがもう一度世界チャンピオンに返り咲くために、行なっている取り組みを教えてください。
若手の育成について再度見直しを行い、若い才能の発掘と投資を行っています。
そのためには、現在取り組んでいないことにも取り組む必要があるかもしれませんし、さらに新たなスパイスを取り入れる必要があるかもしれませんね。
私は2030年のことを考えながら子供を指導しています。
2030年にサッカーがどのようなスポーツに変化するか、イタリア代表はどのようにプレーしているかをイメージしながら指導しています。イタリアサッカー連盟の中でも協議を重ね、慎重な選手育成を心掛けているのです。
昨年は、ヨーロッパチャンピオンになることができ、大きな進歩を遂げた年でした。今年はより良い未来のために、間違いを発見した重要な年です。これらの経験から学び、今後に活かすことができるよう取り組んでいます。
今後のイタリアサッカーは、大きな発展を遂げると確信していますので、楽しみにしていてください。
To Be Continued……(vol.2の投稿は 7/31(日)予定)