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元女子プロテニス杉山愛選手の母 杉山芙沙子:インタビューvol.1「人を育てる魔法のコトバ」

テニスのグランドスラム女子ダブルスで3度の優勝を果たした杉山愛さん。その偉大な記録は未だ日本人には破られていません。彼女の活躍の影には母であり、コーチであった杉山芙沙子さんの存在がありました。芙沙子さんは現在、自身が開発された「スマイルシップスポーツ」を通して、子供、保護者そして指導者の「生きる力=人間力」を高めていく【スポーツ共育】を実践・啓蒙しています。一流選手のコーチだった彼女が、なぜこのような活動を行うようになったのか、インタビューを通して芙沙子さんのコネクトに迫っていきます。

医学博士、一般社団法人次世代SMILE協会 代表理事、パーム・インターナショナル・テニス・アカデミー 校長、渋谷スポーツ共育プラザ&ラボ すぽっと 代表、東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野特任研究員
聖心女子大学文学部心理学科卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。順天堂大学大学院医学研究科修了。元プロテニスプレーヤー杉山愛の母でありコーチ。子育てやコーチとしての経験、そして学術的研究より導き出した幼児教育メソッドを講演や人材育成プログラムを通して伝え、次世代を担う子供たちとそのアントラージュの共育に尽力している。

ポジティブな言葉で育てる「人間力」

――世界で活躍したプロテニスプレーヤーである杉山愛さんのコーチを、2000年から2009年の9年間務めていた芙沙子さんですが、今までの経歴について教えていただけますか?

学生時代はアルペンスキーの選手でしたし、趣味でもゴルフをはじめ様々なスポーツをやっていて、テニスはそのうちのひとつでした。大学の学部時代の専攻は心理学だったので、愛のコーチを引き受けたときは、心(精神面)についての知識はありましたが、身体やその動き(技術面)については初心者でした。そのため、愛のコーチを引き受けてから、必死に勉強しました。本から学ぶこともありましたし、当時愛のコーチとして1年のうち250日間は海外にいたので、そこで様々なコーチやトレーナーから話を聞き、多くの試合を見て、現場から学んでいきました。
愛が引退して日本に帰ってきてから、早稲田大学の修士課程でスポーツ科学を専攻し、今までの経験や学びを整理しました。その後、身体と神経の関係について興味を持ったので、医学を専攻し医学博士の学位を取りました。そして、神経系が最も発達する幼児期に楽しく身体を動かす「スマイルシップスポーツ」を開発し、現在は、スポーツを通して子供、保護者、そして指導者が共に学び成長する場所を提供しています。

――母である芙沙子さんが、杉山愛さんのコーチになるきっかけはなんでしたか?

愛から突然電話がかかってきたのです。電話の内容は「テニスをやめたい」といったものでした。当時スランプに陥って悩んでいた愛からの、救いを求める相談でした。私はすべての話を聞き終えた後、愛に「テニスをやりきったの?」と質問をしたのです。「やりきっていない」と答えた愛に、「やりきってみたらいいと思うよ」とひとこと言いました。
それから愛は「でも、これからどうしたらいいかわからない。ママには見えるの?」と私に聞いてきました。彼女の問いに私は「ママには見えるわよ」と伝えたのです。それが、私が愛のコーチをするきっかけでした。

――なぜ、自分であればできると思えたのですか?

スランプに陥ってるとき、愛の表情も思考もボロボロの状態でした。だから、その原因を紐解き、愛自身の持っている答えを引き出して、笑顔にしてあげることさえできれば本来の愛が戻ってくると思ったのです。愛の笑顔をとり戻すことなら、私はできると確信していました。

個人の良さを引き出すチカラ

――愛さんは、なぜテニスコーチの経験の無い芙沙子さんにコーチを依頼したのでしょうか?

周りからは「見る目」に優れていると言われます。選手の身体の動きはもちろん、選手の表情や様子を察知する力は一線を画しているという評価をいただいています。技術的な部分ばかりに注目するコーチは多いのですが、私は選手の持つパーソナルな良さを見つけて、引き出すことを大切にしています。相対評価でなく絶対評価において個人を評価し、その成長や変化に目を向けて、選手ひとりひとりと向き合うことを一番に考えているのです。
実は自分の良さや魅力を、本人も気づいていないことがよくあります。そういったものを見つけて引き出すことが、私の役目だと思っています。自分の良さや魅力がわかると、やる気や自信に繋がって目の色が変わるのです。そういった他にないアプローチを求めて、たくさんの選手が集まってきてくれているのだと思います。

――芙沙子さんが選手に言葉をかけるときに、意識していることは何ですか?

とにかく良いところを見つけて褒めることです。スキル面だけでなく、思いやりがあるとか、人を褒められるとか、その人が持つ内面の良いところも、見つけたらそれを言葉で伝えてとにかく褒めるのです。そして、気持ちよく調子に乗らせる。そういった「人をその気にさせる力」はスタッフの中でも一目を置かれていて「魔法」とも呼ばれています(笑)。

このようなこともありました。プロテニスプレーヤーの穂積絵莉選手が中学生のときの話です。全国大会を前に、私は彼女に「絵莉の打つボールは、本当にクオリティが高いわよ。打つ方向に足を向けたら全部はいるから、優勝できるよ」と伝えました。そして彼女はその全国大会で優勝したのです。後に彼女に聞いたところ、「杉山コーチの言うことをしたら、優勝できるって言っていたから、やり続けたんだよね」と言ってくれました。
それは、お互いに信頼関係があってのことです。いくら褒めても本人が素直に受け取らず、褒めたことをブロックしてしまうと、改善点を指摘されても受け入れられなくなると思っています。選手ひとりひとりに合わせたぶれない評価軸を心掛けているので、選手たちは私の評価や言葉を信頼してくれているのだと思います。

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