TOPIC

HOME / TOPIC / 元サッカー日本代表 巻誠一郎:インタビュー「"本物と未来を見せる引退試合"に込めた思い。」

元サッカー日本代表 巻誠一郎:インタビュー「"本物と未来を見せる引退試合"に込めた思い。」

サッカー日本代表でも活躍された巻誠一郎さんの引退試合が、巻さんの故郷、熊本で開催された。 巻さんご自身が企画立案し、1万人以上の観客が集まった引退試合を、巻さんと、この試合に参加された同級生のお笑い芸人、ディエゴ・加藤・マラドーナさんとの対談で振り返っていただきました。

1980年8月7日生まれ。熊本県出身。駒澤大学卒業後、ジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に加入。2006年にはドイツ・ワールドカップの日本代表に選出された。その後、ロシア、中国でもプレーし、東京ヴェルディを経て、2014年に地元凱旋する形でロアッソ熊本に移籍。2019年1月に現役引退を発表した。その後はサッカースクールの立ち上げなど、子供たちの支援に力を入れる中、2016年熊本地震の復興支援を目的にNPO法人「YOUR ACTION」を設立して社会貢献活動に尽力している。J1リーグ通算207試合53得点、J2リーグ通算231試合16得点。

演出やストーリーにこだわった“引退試合”とは?!

――まずは、引退試合の感想を教えて下さい。

:自分でプロデュースすると決めて準備をはじめてみたものの、引退試合なんてやったことがないから、無茶苦茶大変でした。もう、何回やめようと思ったか(苦笑)。

それでも試合の当日は、選手のみなさんが楽しそうな表情でプレーしてくれていましたし、観客の皆さんにも喜んでいただけたみたいなので、嬉しかったです。苦労が報われました。

加藤: 引退試合に出させていただいたのは初めてでした。みなさんが楽しそうに、それぞれを思いやりながら、会場の温かい雰囲気を作っている様子が、とても印象に残っています。

:プレーしていて、気持ちよかったでしょ?

加藤: 皆さんから反応が跳ね返ってくるのがいいですね。これまでにも、さまざまな試合を経験しましたが、「すごすぎる引退試合だったな」と改めて感じています。

――引退試合で、いちばん大変だったことは?

:「みんなで笑顔になってもらう」というコンセプトで始めました。試合自体を楽しんでもらうのはもちろんですが、観戦に来てくれた皆さんが、試合以外でも楽しんでくれるように色々な工夫をしました。

例えば、開演前にスタジアムの外にあるステージでイベントを開催して、待ち時間が退屈にならないようにしたりとか、多くの飲食店を呼んで、なるべく並ばないように配慮したりとか。それでも、飲食に関しては足りなかったみたいなんですけど…。

「椅子を何個置くか」というところから始めた引退試合だったので、楽しかったですけれども、大変な部分も多くありました。

「スタジアムでのサッカー観戦は楽しい」とか、「行ってよかったな」とか、一人でも多くの人が思ってくれたら良いと思っています。

――「芸人」として出場された加藤さんは、どんな準備をして試合に臨みましたか?

加藤: 実は、1980年生まれで、巻さんと同い年なんです。1個上の学年は、「黄金世代」と言われていて、小野伸二さん、稲本潤一さんとかいらっしゃいますけど。僕らは「巻世代」なので。

:「巻世代」?言われたことないよ(笑)。

加藤: 1980年生まれの世代で、日本代表の中心だった選手は巻さん。同級生が引退する試合に、「サッカー人」として出場させていただくということになりましたので、身体も気合い入れて作りましたよ。

: やはり、身体を作ってきたんですね。だから、その太ももなんだ!

加藤: そう!この太もも!ツルツルにしました(笑)。僕らの世代を代表する選手の最後の試合に出させていただく機会をいただけたので、気持ちは高ぶりましたね。

――サッカー選手の引退試合に芸人が出場するというのは、珍しいケースですよね?

:選手の引退試合にコンテンツを入れていいか迷いましたが、「みんなに楽しんでもらう」ことを目標にしていたので、新鮮で良かったなと思います。

加藤:引退試合に出場するのは初めてでした。みんなが楽しんでいる雰囲気が伝わって来て、こちらも楽しませていただきました。

――メンバーの選出には、どんな意図がありましたか?

:集まっていただいた皆さんに「本物を見せたい」という想いもありました。
90分の試合にこだわりがあったのですが、引退した選手のプレーがずっと続いても、飽きるだろうなと。「どうすれば飽きないかな?」を自分なりに考え、「エンターテイメントのプロ」である芸人さんを呼ぶことになりました。

加藤:巻くんは、僕らのユニフォームにまで気を遣ってくれて。マラドーナはアルゼンチンのユニフォームですよね。ユニフォーム違うけど大丈夫?とか。

: 演出やストーリーが大切だと思いました。加藤さんを最初は日本代表チームに入れていましたが、アルゼンチンだから相手の方がいいかな?岡野さんは日本?相手?とか。
ナオト・インティライミさんは、音楽の世界の日本代表として世界で頑張っているから日本代表かな?とか。
ナオトさんの背番号は「710」。3桁だけど大丈夫?とか。結局間に合わなくて、手作りで作ったユニフォームを着てもらったんですが。

加藤: 強い思いがあったからこそ、今回引き合わされたという感じがしています。本当に嬉しいです

: 実は、子どもたちが「マラドーナわかるのかな?」という心配はありました。でも、子供も知ってくれているみたいで、ビックリしました。大人気でしたね。

加藤: 嬉しいです。僕は「マラドーナ歴10年」なんですけど、マラドーナ自体の持っている力はすごいなと思っています。子供は生でプレーを見ているわけではないですが、ご両親は知っていて、You Tubeなどの動画サイトで見たことがあって知っているとか。

:(マラドーナは)すごいですよね。そして、加藤さんも意外とサッカーが上手い(笑)。

加藤: きちんとサッカーが出来るところが、他のマラドーナ芸人さんとは違う特徴なので(笑)。

巻:選手みんなが、(ドリブルで)マラドーナらしさを際立たせる演出を入れてくれたり。一切打ち合わせなしでしたからね。僕も見ていて楽しかった。

加藤: 皆さんの優しさを感じました。最後はGKの土肥さんに止められたりとかも。本当に居心地がいい空間で、一瞬でプレーできて幸せでした。皆さんの優しさや想いに感動しました。

――身体作りなどもされたうえで、試合に臨まれているんですよね?

:  身体作る時間はあまりなくて、準備の合間にやっていました。

加藤: 巻さん、全然寝てないんですよね?

:最後の3日間は、きちんと食事が出来る時間もありませんでした。みんながお弁当を食べている時間におにぎり一個とか。営業先を飛び回ったり、看板の設置も自分でやりましたから。会場に60個くらい貼った看板は全部手作りです。

加藤: 細かいところまで、気が利いてすごいですよね。

常識を覆した、一般人も参加できる引退試合。

――試合中にはインスタグラムもやっていましたね?狙いはありますか?

: 普段の試合は裏側が見せられないので、そこも見せたいなと。こだわったところですね。

加藤: 試合でプレーしながら、新しい媒体を使ったPRに挑戦されているのを見ると、実業家だなと。

:引退試合は初めてやるので、僕は常識がないんですよ。だからいいかなと(笑)。常識を覆したいという想いもありましたね。

加藤: 信念がすごいなと想いながら見ていました。

――クラウドファンディングに参加してくれた一般の方が、試合に出場するなど、新しい試みもありましたが?

: 代表選手とプレーできるというのは、多くの人の夢でもあると思うので、企画しました。
一般の方を入れるので、選手の反応は怖かったんですが。

加藤: うまく融合していましたね。一般の方がスーパーシュートを決めたりとか。よかったな。

: チャレンジでしたね。皆さんにも、事前に連絡したんですよ。そうしたら岡田監督も「いいじゃん!」と言ってくれて。

この日の監督だった岡田さんも、機会があれば試合に出場するつもりでいてくれて、実は僕のユニフォームを着てくれていたんですよ。

加藤:出場してほしかったですね。

: 出場してほしかったんですけど、僕がシュート外しすぎてね(笑)。
今回の引退試合、皆さんが作り上げてくれて有り難いなと思いました。自分で準備,企画をしましたが、やっているようで、実はいろいろな方にやってもらっていたということがわかったので、本当に感謝ですね。

――引退試合で思い入れのあるシーンは?

加藤: 前夜祭から携わらせていただきましたが、巻さんのことをみんなが頼りにしているのが印象に残っています。巻さんのプロデュースの姿勢や、思いが伝わっているというのが、僕にも伝わりました。

あと試合では、巻さんのヘディングが、あらためてうまいと思いました。サイドネットにヘディングで決めるシーンがあったんですけども、そのシーンを特等席で見られてよかったです。想い出深い引退試合になりました。

: あまり自分のプレーにこだわりはないんですけど、みんなが楽しく過ごしてくれたらいいなと思いました。

体力的には、現役時代と同じというわけにはいきませんが、それでも選手のみなさんの高い技術やボール回し、そしてディエゴのドリブルシーン、あとは岡野さんが走るシーン。
自分のプレーの印象は、あまりないですね(笑)。

――引退挨拶はどのような印象でしたか?

: 話す前にマイクがハウリングしてしまって。結局、何を話したか覚えてないんです。全部忘れました。

加藤: すごい良かったですよ。

: 妻が花束渡したときに泣いてたんですけど。その理由が、感動したとかじゃなく、試合でヘディングしすぎて、倒れると思ったからなんですって(笑)。

加藤 :センスありますね(笑)。

:引退試合にはそういう「オチ」がありました。試合ではシュートもPKも外しましたが、
今振り返ると、僕らしいと思いますし。僕らしさを演出してくれた皆さんだったなと感じますね。

サッカー選手だからこそ社会に伝えられるメッセージがある。

――引退試合終えて、熊本への想いを教えて下さい。

: 熊本に住んでいると、大きなイベントがなかなかない。まずは引退試合で、サッカーやスポーツの楽しさを伝えたいと思いました。

震災のあと、徐々に復興が進む一方で、まだ前向きになれない人もいる。でも、サッカーをやると、辛いことも忘れられて、その時間を積み重ねれば、徐々に前向きになれると考えています。

楽しい空間を作り出していけば、みんなの笑顔を作れるようになる。引退試合がそのような場所に出来ていたら嬉しい。これからも熊本のためにアクションを起こしていきたいです。

加藤: 熊本は過去にも訪れたことがありますが、最もインパクトに残る滞在でした。会場の温かい雰囲気などは忘れられません。熊本がこれまでよりももっと好きになりました。

――最後にそれぞれの今後の目標を教えてください。

:引退試合で、「未来を見せられる」ようにしたいと思っていました。いろいろな場所に散りばめていたつもりでしたが、「サッカー選手もきちんと社会と向き合っている」ということを、これからも発信してきたいと思います。

加藤: サッカーの楽しさを伝え、みんなに笑顔になってもらいたいというのが、僕がマラドーナをやっている理由でもあります。

「プロになれるかどうか」などの、細かい指導は出来ませんが、とにかくサッカーを好きになってほしい。今回、引退試合に参加させていただいて、巻さんを始めとするプロサッカー選手の皆さんも、そういった想いを大切にされているのがわかって、嬉しかったです。僕ももっと頑張っていきたいなと思いにさせられました。

RELATED POST