――昨年、「ONE TEAM」という言葉が、流行語大賞となりました。ラグビー界では、昔から 日常的に耳にする言葉でした。なぜ今、この言葉が受けるのでしょう?
みんなワンチームではないからではないでしょうか。ワンチームになっているのだとすれば、流行語にはならないですから。何かしらワンチームになれないとか、何か組織に対し て違和感をみんな持っている。そんな時、ラグビーの潔さみたいなところに、「なんか凄くいいね、この人達」みたいなのがあって、それでこの言葉がすごくハマったのではないかと思います。
――現役引退、ラグビーの現場からも離れ、会社も辞めています。ラグビー漬けの環境から離れて、ワンチームを実感することは、ありますか?
ラグビーが持っている絆みたいなところですか?ラグビーでない仕事をする時でも、ラグ ビー関係の人とは、阿吽の呼吸みたいなのがあります。「やっておいて」、「オッケーオッケー!」みたいな。違うプロジェクトをやると、なかなか上手くいかなかったり、ちゃんと伝えないといけなかったりとか、そういうことを感じる機会はありました。今回、スクラムユニゾンという、W 杯出場各国の国歌を歌っておもてなしをしようというプロジェクトを行いました。歌う人もいるし、音楽を作る人もいるし、広報の人もいるし、全くラグビ ーのバックグラウンドを持たない人が多かったので、今まで上手くいっていたことの歯車 が狂ってしまいました。それが普通なのでしょうけれど、ラグビーの人達は、自然とお互 いのことをリスペクトしたり、この人はこうなのだろうみたいなことを大事にしたりするなど、温かい気持ちを持っているのだなということは感じました。一方で、別にだからと言って、シンガーの人とか、音楽を作る人や映像制作の人が持っていないというわけではないですが、やはりバックグランドは違うのだということを思いました。でも、スクラムユニゾンというプロジェクトがなぜ上手くいったかと言うと、ひとつは目的というかミッション、その存在意義が明確で、そこに対してみんな共感してくれたということです。それが、とても良かった。僕自身は、みんなのことを信頼して、そこからブレなかったことが良かったと思っています。
――ワンチームや、そうした共同作業には、平等な響きがあると思います。その中でのリーダ ーの役割を、どのように捉えていますか?
目的がすごく大事だと思います。日本代表がなぜ存在するのかというところを、リーダー がきっちり言えるかどうか、もしくはみんなで作れるかどうかということが大事だと思い ます。それをやるための役割というのは、人それぞれ異なると思います。試合に出て活躍 して貢献できる選手がいる一方で、試合に出られない選手もいます。今回の W 杯では5人 位、出場機会のない選手がいました。ウォーターボーイとして貢献する人もいるし、相手 チームの分析をする人もいれば、チームが活躍するために自分を犠牲にする人もいるし、 それぞれの役割があることは、とても大事なことです。あとは、人間関係がすごく大事だ と思います。今大会では、お互いが尊敬しあって、試合に出る出ない関係なく、それを作れたということが大きかったと思います。
――組織になると、問題児と言っていいか分かりませんが、はみ出していたり、主張が強かっ たりする人が、必ず出てくると思います。リーダーとして行いたい方向性があるのに、違う意見出て来た時など、どう対処してきましたか?
無関心より、何かしら発言してくれる方が良いと思っています。何か思いがあるから、そ ういうこと言うのではないかと思います。問題というより、その発言は表層に出ているも ので、発言の裏側には見えないものがあるはずなので、見えない彼の発言の真意が何かと いうところを探りにいきたいとまず思います。その発言が、自分を守るためだけの発言で あれば厳しく言うし、チームに対する思いがあってそういうことを言ってくれているので あれば、言い方だけ変えてもらうとか、「直接言ってよ」とか、そういうアプローチをするのではないかと思います。そこは、ちゃんと繊細にその選手に対して向き合いたいと思います。
――架空の人物ですが、ご自身がドラマで演じた「浜畑譲」という存在を振り返ってどう思いますか?どこか斜に構え、棘があるものの、チームのことを真剣に考えていて、元日本代 表という実力を持つ浜畑譲は、役割は持たないものの、リーダーに近く、場合によっては 問題児になりかねない、そんな存在と映りました。
自分のスタイルとは違うキャラクターだったので、最初すごく違和感を持っていましたし、 「うーん......」という感じもありました。チームの中にいるのは、必ずしも役職、タイトルがついているリーダーだけではありません。浜畑のようなリーダーは、結構いるものです。ああいう役を、良く作ってもらえたなという気はします。出演の依頼があった時点では、あんな感じとは知らなかったです。事前に知っていたら、もうちょっと戸惑ったと思います。でも、どっちにしてもやったと思います。会社も辞めて、W 杯に全てやろうという年だったので。
――個人競技の中におけるリーダーと団体競技のリーダーは違う気がします。どう思われます か?
個人競技をやったことがないので、何がどう違うのか、きちんと話せませんけど、個人競 技は自分でやらないといけない範囲がとても大きく、自分次第というところがとても大き いなと思うので、大変かなという気はします。特に若い時ですね。その分、個人、個々が 確立されるような、そういう強さを持っている気がします。ラグビーのキャプテンは、組 織作りは得意ですけど、一方で、野に一人放たれた時にすごく寂しいというか、弱さではないけど、そんな特徴がある気がします。
――ラグビーは、1チームあたりの人数が多い競技です。その分、1人のリーダーの影響力が薄まるかもしれないし、大人数をまとめるのが大変かもしれません。
人数が多いから薄まるかどうかは、どうなんだろう......。もし本当に素晴らしいリーダー がいれば、なんとかなるような気はしますけども、その人の負担は凄く大きくなりますし、 その人が怪我した時とか、何かあった時のリスクヘッジは取れないなと思います。ですの で、今回の日本代表がそうでしたけど、リーチ マイケルがチームのことを考えすぎてパフ ォーマンスが落ちた時に、ピーター・ラブスカフニが代理でキャプテンをやって、マイケルがプレーに集中できたということは、リスクヘッジとして良かったと思っています。今の時代のリーダーシップグループは、ああいう形で試合をして、いろんな人の良いアイディアを出しながら、チームを作っていく方が良いのではないかという気はしています。
――現在、世の中では、暗い話題が多くなってしまっています。そんな大変な時にこそ、モチベーションを上げることや、意識を変えることが求められるように思います。廣瀬さんご自身がメンタルを変えたことや、変革期のご経験などについて教えて下さい。
日本代表のキャプテンから外された時が結構大変で、苦しいなという気がしましたが、そ の時頑張れた理由は3つあります。 1つ目は、チームの目的がすごく良かったことで、憧れの存在になろうというところと、 日本ラグビーの歴史を変えたいという思いがあったので、そこに対してキャプテンという役割があろうとなかろうと関係ないと思えたことです。 2つ目は、仲間がすごく良かったので、この仲間と一緒にいたいという理由で頑張ったことです。 最後に3つ目は、当時ジャパンのメンタルコーチだった荒木香織さんに、「もう辞めていいよ」と言われたのですが、「辞めていいんや」と思った時に、僕は「ここにいたい」と思ったことです。自分でここにいることを選んでいるのだという時に、取り組みが変わったんです。なんかしんどいとかブーブー言っている会社員の人がたくさんいますけど、そこに来ることを選んでいるのは自分なのですよね。そこは履き違えないようにしないと。嫌だ ったら辞めてしまえばいい、そこまで言うときつすぎるかもしれないけど、でも来ることを自分で選んでいるのだよっていうことは、変わっていけるのではないかと個人的には思 います。
――これからの自分の描く、自分自身の目標はありますか?
自分の会社を作ったのもありますけど、今までやっていないことをやっていきたいなとい うのがすごくありますし、スポーツに育てられたので、スポーツがもっと普及してほしい なという中で、自分らしいことをやっていければ、とても楽しいことだと思っています。 ここ 10 年位は、大きいところ所属するというよりも、ゼロ位置でいろんなものを作っていこうみたいな人と一緒にいろんなことをやっていけたら面白いなと。50 歳位になったらもう少し大きな組織に係っているかもしれませんが、10 年間位はそんな感じで小さいところで、どんどんグビーンとスピード上げてやれたら面白いかなと思っています。