「ゆる」は日本ならではの素晴らしい考え方
萩原:「ゆる」という考え方は日本人同士の共通認識の中にあって、ひとことで言い換えられないのが多面性という意味ですごくいいですよね。
澤田:「ゆる」という概念は「もったいない」と同じくらい素晴らしい日本の概念だと思っています。僕は日本的な「正解はひとつでない」という多神教マインドがとても好きなんです。ゆるスポーツのワークショップで参加者からアイディアを聞くとき、誰がどんなアイディアを言っても絶対に僕は「正解!」と言います。なぜなら全部正解だから。私の正解ではないけれど、あなたの正解であるからです。それが「ゆる的マインド」で、あなたと私は答えが違って面白いわけです。
萩原:ワークショップでは様々な背景を持つ方が参加されていて、参加者それどれに合った方向にもっていくことが大事だと思うのですが、意識していることはありますか?
澤田:重要なのは緩急に振り子を動かせる「ゆらぎ」をつくることだと思っています。多くの人がスポーツは締めつけるものだと思っているのですが、その緩急でいう「急」という状態の振り子を、ぽんと押して真逆の「緩」もあることを知ってもらうんです。振り子が緩急を行ったり来たりして、ゆらゆらっとしながら前に移動していくような感じです。この「ゆらぎ」を許容することが「ゆる」という考え方だと思っています。
萩原:ゆるスポーツは世の中で定義づけられているものを生かしながら一部を変えていくことで、カウンターカルチャーにしないように意識していますよね。カウンターカルチャーは、今度は別のカウンターパンチをもらうのが常ですが、ゆるスポーツの考えはカウンターじゃないから、既存のものやこれから出てくる考え方と共存をしやすいですよね。
澤田:僕はそれを「ゆる」と「シビライゼーション」をかけて「ゆるライゼーション」と呼んでいます。現在取り組みを始めている「ゆるミュージック」をはじめ、様々な分野で取りいれていきたいと思っています。
点在するものどうしをつなげて星座にする
萩原:「ゆるスポーツ」は概念を定義づけて、多様性を許容できる器を作ったことが一番の発明ですよね。
澤田:広告代理店として様々な企業に接していると、いいものが点在している状況がもったいないと思うことがたくさんあります。僕は点在しているものをくっつけることを「星座を設定する」と表現しています。実は「ゆるスポーツ」は、星座という概念に近いんです。点在している輝かしいものどうしを、戦略的に概念でつなげて星座というチームにまとめ上げるんです。その結果、それぞれの力がより発揮されます。だから、ゆるスポーツに加わることで、より輝く人や技術が存在するわけです。
萩原:例えば「ゆるスポーツ」でいうとベビーバスケ座、イモムシラグビー座を見てこういう星のつなげ方もあるんだとみんなが気づくことに「ゆるスポーツ」の社会的価値があるのでしょうね。
澤田:同時に参加者を星に見立てて、参加者同士の星もつなげて星座ができているといえます。全く接点のなかった障がい者や健常者がつなげられるのはゆるスポーツだからこそ出来るという部分だと感じます。
フレンドをヒーローに。ゆるスポーツで前提条件を交換する
澤田:「ゆるスポーツ」はいろんな人を起点に作っています。特に僕は自分の中に1人のフレンドを設定して、フレンドがヒーローになれるスポーツを作るんです。そうすると、様々な前提条件のスポーツが生まれるんです。
萩原:イモムシラグビーであれば車いすユーザーの気持ち、ゾンビサッカーであれば視覚障がい者の気持ち、500歩サッカーであれば運動量に制限のある心臓病の少年の気持ちになれるということですね。
澤田:そのような様々な「ゆるスポーツ」を経験することで、前提条件の交換が行われているんです。社会は健常者が前提となっているので、その中で障がい者を含めた多様性を見出すのは難しいわけです。それであれば、前提条件を交換するのがいいと思うんです。例えばゾンビサッカーを体験することで「目が見えないってこういうことか、なるほど!」とか「意外と耳で情報を得られるな」とか。
萩原:そういう前提条件の交換って、ほとんどやる機会がないですもんね。スポーツは「ルール」というもので行動や条件を制限された環境を作り出せるので、それにすごく適していますね。
澤田:新たなことを学ぶときは身体で学ぶのがいいと思っているんです。身体は変化を起こしてくれるトリガーであるから発見が非常に多いんです。スマホを開けば情報は入ってくるけど、見ているだけでは自分の中で腹落ちしないし、体験しないと価値観は変わらないと思うんです。大人になると身体を動かす機会がほとんどないから、スポーツを取り入れて定期的に価値観が変わるような体験をしてほしいと思っています。