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–パラリンピックで準優勝という成績を収めました。改めて振り返ってみて、どのようにお感じでしょうか?
非常にほっとしているという感じです。
ホームアドバンテージがあっての結果と捉えているので、ここからが本当の意味で勝負になってくるのかなという風に思っています。
メダルを取った反面、またこれから過酷な強化が続いていくのかなと感じています。
–どういったアドバンテージがあったとお感じでしょうか?
試合順を決めることができたかどうかはわかりませんが、試合時間は常にほぼ一定の時間でした。
宿に帰るのが夜1時過ぎになっても、ちゃんとリカバリーする場所があり、食べ物も良かった。あと、コロナ禍の中で、多分、日本が一番強化合宿できたんじゃないかなっていう風に思いますね。
対外試合できなかったというのもありましたけれども、そういうのを差引いても、やっぱり自国のアドバンテージはあったなという風に感じています。日本全体が我々をバックアップしてくれたと感じています。
ですが、これから戦う場所はアウェーになるわけで、どういう状況になるかわかりません。
–躍進の理由、ホームアドバンテージ以外の部分は、如何でしょう?
U23の世代が凄く伸びてきたことがあります。
また、その若手に負けず、ベテラン陣も非常にいい働きをしてくれました。そういった若手と中堅、ベテランのバランスが非常に良かった。
そうしたことが、凄くいい方向に向いてったのかなと思います。
–強豪国の地位は築けたと考えて良いのでしょうか?
今まで世界ランキング9位で推移していたチームが、突然パラリンピックで2位になりましたが、それで「俺ら世界のトップだぜ」ということでは全くないです。
だから、本当の意味で日本が強豪国と言われるためには、ここから何を、どう残していくかだと思うんですね。各国、これから強化してくるでしょう。世界のトップであり続けるために、ここからが本当の意味で勝負になってくるというところに辿り着きました。
だから、16ヶ国参加の世界選手権でトップ5というのは1つの目標ですが、パラリンピック2024年パリ大会で、もう一度メダルに「チャレンジ」する。我々はチャレンジャーだっていうことを、選手にこれから伝えていきます。
そんな甘い世界じゃないですしね。東京2020では、予選リーグも決勝トーナメントも、ほとんどの試合、スコアは一桁差なんですよね。1つのミス、1つのプレーでひっくり返ることもありうる差であって、それがたまたま日本に良い方向に向いてくれただけです。
一歩間違えれば、全部負け試合になっていた可能性もある。銀メダル獲って浮かれている場合じゃないですね。
–金メダルには届きませんでした。何が足りなかったと捉えてらっしゃいますか?
勝負の「キワ」の部分でミスをしてしまったことに加え、シュート力など個で打開する力、そういった部分が、4点という僅差ですけれども、アメリカとの物凄く大きな差だと感じています。
–個々人の打開力、どういったことが必要になるのでしょうか?
トレーニングをどう組み立てていくかだと思います。
シュート練習も、ただやればいいというわけではなくて、例えばドリブルで1対1の状況でゴールを決めていくとか、相手がいる中で行うとか、常に競い合わせながらのトレーニングを毎回入れていくとか。
そういった、とにかく競わせる、競い合わせて、競争力を毎回数値で出していく、そういう風にして常に意識させていきたいです。また、行けばいいというわけじゃないですけれども、海外に行って、世界のサイズの大きさだったりとかパワーだったりとかというのを体感してくるのも、強化方法の1つかなと思っています。
シーズン通して行くということじゃなくても、2ヶ月とか、留学じゃないですけど、そういう制度ができればいいと考えています。既に話はしていて、あとは受け入れ先の問題です。
個の力、個の打開力というところは、本当にこれから追求していきたいなというところです。もちろん、オフェンスだけじゃなくて、ディフェンスで守り切れる個の力もそうです。
–選手のサイズとパワー、そうしたフィジカルの部分について、どのように捉えていらっしゃいますか?
パワーに関しては、トレーニングをすれば、いくらでもついてきます。
逆に、ヨーロッパ勢などサイズのあるチームは、クイックネスが無いんですね。多分、車いすの操作力については、実は日本が世界でナンバー1だと思うんです。
ポジション取りというのは、タイヤ1本分、もっというと「リム」という車いすを漕ぐ鉄の部分、その数センチ単位のせめぎ合いなんです。それを細かく動かせるかどうかで、前に行けるか行けないかが決まってきます。そういったところを、この1年間徹底してやってきて、ディフェンス力がついてきました。
そういった細かい作業ができるのは、日本人に独特のものだと思います。さらに追求していけば、また他の国に差をつけることができるだろうなと思います。
世界的に見て、日本はスピード、クイックネスという部分ではトップにある。でも、そのスタイルの中で、どれだけの判断ができるか、そこは今後の課題です。
–目指すスタイルに適した選手を選んでいたのでしょうか?
最初から全員が全員早かったかというと、そうではありませんでした。
まだまだ12名には入れなかったけれども、得点力のある選手だったり、頭のいい選手だったり、いろんな選手がいます。これからまた、違う選手も出てくるでしょう。
スピードの速さだけじゃなくて、頭の切り替えの早さや判断の早さなども要求します。そういうところができる選手というのは、スピードがなくても、予測ができれば、多分トランジションの早いバスケットには対応できると思います。
–京谷さんがこれまで生きてきて、そしてこれから生きていく上で、特に指導者として、選手としての経験を踏まえて大切にしているもの、大切にしている言葉、そういうものがあったら、是非教えてください。
大切にしていること……。やっぱり常に、どんな時でも夢や目標を持ち続けるっていうこと。これは、非常に大事にしています。
プロのサッカー選手になった時に、そのこと自体で満足してしまい、その先の夢や目標がなかった自分がいました。それで、僕は(岡田)武史さんから、常にどんな時でも夢や目標を持つことは大事だっていうことを言われました。入院期間中に、それを思い出してハッとしまた。
その言葉は常に持ち続けていますし、大事にしています。かつ、夢を夢のままだけじゃなくて、それに向かって、やっぱり行動していくっていうこと。これは中学生、小学生とかにもよく話すんですけれども、「失敗してもいいんじゃない」という言葉を伝えています。失敗は成長の素だから、と。僕自身がそれを体感してきました。
何度も失敗して、その度にいろんなことを考えて、違う方法を考えて、1つ成功して、「あれ?昨日までの自分となんか変わってる」みたいな感じになると、また1つ成長したなっていう風に思える。だから、とにかく夢を持って行動を起こして、どんどんチャレンジしていく、失敗を恐れずチャレンジする。
今の人生の中でも、今回のパラリンピックに関しても、腹括ってから、チャレンジの毎日でした。そういうことが大事だなっていう風に、常に思っています。
–今年、U23の世界大会が、日本国内で開催されます。そこに向けての目標、サポーターの方々へのメッセージを、お願いします。
とにかく、金メダルを取れると信じてやっていきます。
それは、東京2020で銀を取ったというのもあるんですけれど、自国開催のアドバンテージが凄く大きかったということを良くわかっています。
今度は有観客になる可能性もあるので、そういった人たちの後押しももらい、金メダルという目標を掲げています。選手たちにも話していますが、金を取るだけの実力もあると思っています。国際大会を日本でやる機会は、なかなかありません。
先ほども述べましたが、まあ騙されたと思って、一度観に来てもらって、そこで何かを感じて頂ければ、本当に良いなっていう風に思います。
そのために、我々は全力でメダルを取りに行きますので、そういった姿を見て、いろんなものを感じ取ってもらえれば、ありがたいなって思いますね。
End(お読みいただきありがとうございました。完 )
3回にわたりお届けしてきました、車いすバスケットボール京谷和幸HCのインタビューは、今回で終了です。
来週より、日本車いすバスケットボール連盟理事を務める、田中晃氏(日本連盟理事/WOWOW代表取締役社長執行役員)のインタビューを掲載予定です。