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–U18という年代は、GKにおいてどのような年齢にあるのでしょう?
U18の選手は、技術的な側面について、ほぼ成長し終えた段階にあると言えます。
ボールを正しくキャッチする方法・ボールを弾く際の動き方や飛び方・パントキックなどの基本技術を、すでに身につけている必要がある年代ということです。
技術的に完成されつつある選手が次に習得すべきことは「さまざまな状況下で正しい決断をする能力」だと考えています。
これを習得するには、ゲーム中に起こり得る幾多のシチュエーションを想定したトレーニングが有効的です。
私がよく行う練習を説明しますね。まず私がボールを天に向かい高く蹴り上げます。そのボールをGKがキャッチしたら、私が「右」または「左」と叫びます。GKがボールをキャッチして、地面に立った瞬間に、私が叫んだ方向へ素早くパントキックを蹴るというものです。
闇雲にトレーニングを行うのではなく試合と同じよう状況下で、反応したり判断を必要とするトレーニングを行う必要があります。
試合と同じような状況とは、チームの監督が描いているゲームプランに基づきます。
後方からパスを繋ぎ、ボールを保持しながら前進するスタイルを好む監督は、GKもビルドアップに参加することを求めます。その場合、GKでも両足をうまく使ってボールをコントロールし、パスを出すべき味方を状況によって選択できるようにトレーニングしましょう。
反対に、速攻やカウンターを好む監督には、GKにポゼッション能力はあまり求められませんよね。その場合は、DFを飛ばして一気に中盤の選手やFWの選手に正確なロングフィードを出せるよう、キックのトレーニングに時間を割くことになります。
チームのプレースタイルに合わせたトレーニングを行うことが、パフォーマンスを出すために必要な条件なのです。
–この年代では、何が一番重要なのでしょうか?
この年代で一番重要なのは「良いプレシーズン期間」です。良いプレシーズンが、その選手の1年間を通したパフォーマンスを決めるといっても過言ではありません。
ここ南米ではどのカテゴリーでも、1年間に2回のプレシーズンを行うクラブが多いです。その期間内に、フィジカル・技術・戦術・メンタルを鍛えます。強度の高いトレーニングを20日から30日間、1日2回ほど行うんですよ。
休みモードの身体からリーグ戦で戦う戦闘モードへ移行する準備期間です。
プレシーズンが開始してからフィジカルの強度を徐々に高めていき、リーグ戦が開始する数日前を目安に強度を落とす流れが一般的ですね。
グラフにすると、山のように見えるような強度を意識するようにします。プレシーズンは選手の成長を決定づけるものだと私は考えています。
U18の選手のプレシーズンでは、この時期に一番成長しやすい、フィジカル的な要素に重点をおいてトレーニングするとよいでしょう。
エルナン氏独自のトレーニングメソッドは、年代・状況等で細分化されている
–GKにとって「良いプレシーズン」とは、どのようなものか教えてください
良いプレシーズンとは、フィジカル・技術・戦術・心理の3要素をバランス良く取り入れたトレーニングスケジュールを組むことです。
怪我を避けつつ、ジャンプ力や横に飛ぶ脚力を鍛えるために、私は砂場でのトレーニングをよく行います。
GKのプレシーズンでは、まずジャンプ力や強さといった、プレーする上で基本となる能力を鍛えます。
次に反応速度や敏捷性、ポジショニング、急いでボールに対応しなければならない際の正しい技術など、より細かな状況に対応するためのトレーニングを行いますね。
プレシーズン後は、大会のスケジュールに合わせたトレーニングを行っていくのです。
リーグ戦期間は、ハードに追い込むトレーニングをするというよりも、試合での悪かったところを分析、改善するような修正作業を行います。
–フィジカル・技術・戦術を鍛えるというのは簡単にイメージできますが、心理的な要素はどのようにトレーニングすることで養われるのでしょうか?
科学的に正しい心理的アプローチをとるのです。
アルゼンチンには、選手の心理面をケアし能力を最大限発揮させることができるよう、スポーツ心理学者を雇うクラブが多くあります。
その心理学者が、週に1回トレーニングの前か後に、セッションを設けるのです。そこでは共通の目標設定を立てたり、サッカーに関する質問に答えたりしながら、自分やチームメイトの理解を深めていきます。
たとえば「試合開始早々に失点をして0-1の状況になったらどうするか?」「後半終了1分前に失点してしまい、0-1の状況になったらどうするか?」という質問を心理学者が選手に質問し、それぞれに答えてもらうというものです。
そのほかにも、家庭環境に関する質問もありますし、彼女や彼氏がいる選手には、恋愛に関する質問もあるんですよ。
選手の心理は、さまざまな要素で構成されていますからね。もちろん、そのセッションで話されたことには守秘義務が適用されます。プライバシーが関わるので、たとえ監督でも知り得ることができません。
–日本の育成年代には、プレシーズンと呼べるものがありません。1年中トレーニングや練習試合をしています。プレシーズンが終わったらリーグ戦が始まることはわかりますが、その前には何をするのでしょうか?
プレシーズンの前には、3週間から4週間の休暇があります。その期間中にサッカーをすることはないですし、チームの活動もありません。それはここアルゼンチンやブラジル、コロンビア、チリなど南米をはじめ、ほとんどの国でも同じです。
3週間から4週間の休暇を取るのは、1年間戦った身体とメンタルを休めるためです。
年間を通し、毎週末に自分のキャリアをかけた戦いは、精神的にも身体的にも大きな負担となっています。なので、シーズンが終わったら、翌年も高いモチベーションでいられるため、精神面と身体面をリフレッシュさせるのです。
アルゼンチンでは、ホテルやペンションのような施設を持っているクラブもあります。アルゼンチン中から選ばれた選手が、その保養地で生活するのです。
たとえばリバープレート(アルゼンチンの名門クラブ)は、U13,U15,U18の選手が合計120名ほど生活できるホテルを所有しています。その120人の選手はシーズン中、クラブで生活をします。
そこでは1日4回の食事を出し、栄養士が選手たちの食事を管理します。そこに心理学者も駐在しており、選手の心理状態のケアも行うのです。若い選手が家族と離れて暮らすことは簡単ではありませんからね。
ですが休暇になると、選手は家に帰り、休暇をとります。休暇の期間は、家族との時間を過ごすことや、友達との関係を作ることに充てます。人生はサッカーだけで構成されていませんからね。
–日本の育成年代には長期の休みがありません。休むことは悪で、自分を追い込むことは素晴らしい、という美学があります。休むことを罪悪感に感じる私たち日本人に、何かアドバイスはありますか?
それぞれの国には文化があるのでなんとも言えませんが、日本の皆さんに共有したい話しがあります。
イギータ(元コロンビア代表GK)とチラベルト(元パラグアイ代表GK)と私の3人で食事をしている際に「良い練習とは何か」というテーマについて話しました。
その際に彼らは「一番良いトレーニングは休息である」と言っていました。
毎日ハードなトレーニングをしても、筋肉を休めなければ、トレーニングの内容を脳と筋肉が記憶することはできません。回復するのに十分な時間がなければ、ハードなトレーニングも逆効果になってしまうのです。生理学的な観点から見ても、身体は夜寝ている間に回復するので、十分な休息を取らなければなりません。
休むことに罪悪感を感じてはいけません。休息を取らないと、トレーニングによって破壊された体細胞が再生されず、成長することができないです。それは生理学的にも証明されていることです。
トレーニングは、休息という要素の上に成り立ちます。休息の間に筋肉が成長し、脳は筋肉の動きを記憶します。常に高い負荷を与えるのではなく、適切に休息を取り、身体を回復させることで、次のトレーニングに備えることができます。
–日本のU18のGKに向けて、メッセージをお願いします
ハードなトレーニングをしたら、その後はしっかり休んでください。
トレーニング強度が上がるほど、休息の時間も多くとる必要があります。日本の選手のプロ意識は素晴らしいですが、度を越すと怪我につながったり、燃え尽きてしまうことがあります。
バランスをとりながら科学的にトレーニングしてみると、さらなる自己成長につながりますよ。
To Be Continued……月に一度(不定期)掲載を予定しています