–今日は「ヨーロッパと南米のGKの違い」について話しを伺いたいです。両者にはどのような違いがあると考えますか?
まず、身体的な特徴が大きく違います。南米の選手は、骨格に恵まれている訳ではありませんが、スピードや反応の速さなどの、身体能力が優れている選手が多いです。
反対にヨーロッパのGKは、骨格的に優れており、身長が高く、手足が長い傾向にあります。
プレースタイルの観点から見ると、南米のGKはヨーロッパのGKよりも、積極的に前に出る選手が多いと思います。ボールに向かって行くような守備をするスタイルです。
反対にヨーロッパのGKはより保守的で、前に出てボールにアタックすることは少ないですね。ゴールの近くで技術力を活かしながらゴールマウスを守るスタイルです。
–南米の選手の特徴を聞いて、プレミアリーグのアストンヴィラでプレーする、アルゼンチン代表の正GKエミリアーノ・マルティネス(media CONNECTにも出演)が思い浮かびました
彼はゴールマウスに張り付いて守備をするのではなく、ボールに向かって行く攻撃的な守備をします。彼のスタイルは南米のGK を象徴していると思いますね。ボールに向かって守備をすることで、相手選手からシュートを打つまでに考える時間とシュートコースを奪っているのです。
【マルティネスのプレー集】
ヨーロッパのGKを挙げると、ベルギーのクルトワや、イタリアのドンナルンマでしょうか。彼らはゴールマウスからあまり動かず、相手が打ったシュートに反応する形でゴールを守ります。
–南米とヨーロッパで、このような違いが出るのは面白いですね。プレースタイルの違いは、大陸間で「サッカー」というスポーツの捉え方に違いがあるのでしょうか?
その通りです。南米の選手にとってのサッカーは、人生や愛、自己表現の一環です。サッカーをプレーするということが、自分の人生を捧げることを意味しますし、戦いに勝つことこそが人生の成功と密接に繋がっています。小さい頃から勝敗が人生を左右する環境にあるため、個性や情熱、アグレッシブさでヨーロッパの選手を上回っていると個人的には思います。
一方ヨーロッパでは、サッカーを論理的・戦術に重きを置きます。その戦術の中で発揮できる技術力を冷静に見極め、論理立てて相手チームを攻略する能力に長けていますね。スポーツを、学問的に捉えていると言えるでしょう。
–確かに、言われてみればそのように見えますね。しかも南米には、個性的なGKが多いようにも感じます。それはなぜだと思いますか?
個人的には、ヨーロッパよりも南米の方が、精神面や運動能力面で勝っていると思います。
私がそう考える理由は、南米の社会環境や育成環境にあります。
サッカーで飯を食べるために人生を賭けている若い選手が数多くいますし、家族を支えるためにプロを目指す子供もいます。
その選手の多くは、日々多大なプレッシャーと隣り合わせで生きていると思います。トップレベルのクラブに入団できたとしても、いいパフォーマンスを出せなければ、若い選手でも1年足らずで契約を切られてしまうんです。
若い頃からそういった環境で育った子は、プレッシャーを受けることに慣れています。
ヨーロッパではよりマニュアル化された育成が行われ、選手を育成するためのツールや知識が揃っています。より能力を高めるためにGKコーチは、無駄を削ぎ落とした指導法で育成していくのです。効果的な育成方法は多くのクラブでシェアされるので、平均値こそ高いが特徴も均一化された選手が育ちます。
反対に南米では、ヨーロッパほどのツールや知識は揃っていません。確立されたトレーニング法もヨーロッパには及びません。南米でGKコーチが一般的になったのは、ここ15年程ですが、ヨーロッパでは30年程もの歴史があるそうです。
南米は、まだまだ手探りで育成を行っている部分があるため、よりオリジナリティのある選手が育つのではないでしょうか。
–ヨーロッパと南米の良さをうまく兼ね備えたGKを育てることは可能だと思いますか?
可能だと思います。
お互いの大陸が自分たちの持っていないモノに気づき、補おうとさえすれば。
それを可能にしているのが「移民」です。移民たちは、私たちには持ち合わせていないものを持っています。
先ほど私が「南米の選手の方が優れている部分がある」といったのは、ヨーロッパよりも多くの人種の混じりがあり、そこで勝ち残ってきたDNAを持っているからです。
アルゼンチンを例に挙げると、ドイツ、イタリア、スペイン、アメリカ、イギリス、ロシアからの移民がたくさんいます。このような歴史的背景が、多種多様な文化や考え方を生みました。南米はスペイン人に侵略されていましたよね。
それでも祖先はスペイン人に対抗し、生き残った南米人とスペイン人の混血が、今日の南米を作りあげました。
そういった歴史が、私たちに勝者のメンタリティを植え付けたのです。
文化が混ざり合う過程では、異なる人種同士が他の文化から学び合い、よりよい解決策を生み出せるようになります。それは、GKを育成する過程での考え方にも当てはまるのです。
–文化の融合といった視点からプレースタイルを語るのは面白いですね。しかし日本は島国なので、大陸国ほど文化の融合が起きづらく、情報も制限されています。このような状況ですが何か良いアイディアはありますか?
多様なトレーニングを、偏見なしで行うことが有効だと思います。
ヨーロッパの練習法を取り入れることは素晴らしいことです。しかし選手のレベルや年齢を考慮し、チームに合ったトレーニングを行う必要がありますね。過去のインタビューでも話していますが、ゴールデンエイジと呼ばれる6歳から12歳までの間は、フィジカルよりもGKに必要な個人の基礎技術を高めることをお勧めします。
なぜなら、ゴールデンエイジと呼ばれる年代は技術的吸収が早いからです。
なるべく若い年齢のうちに高い技術を習得することができれば、戦術を学んだ際にそれらを活かしたプレーができます。
–日本のGKで知っている選手はいますか?また、日本のGKに持っている印象を教えてください
権田選手は素晴らしい選手だと思います。良い体格をしていますし、技術力が高くスピードもありますね。
日本のGKは、技術的にも戦術的にもしっかりトレーニングされている印象です。その点では、ヨーロッパのGKとよく似ています。
しかし、より勇気をもって決断すること、ゴールを防ぐための判断の速さを学ぶ余地があるように思います。常にゴールマウスの近くで守るのではなく、時には前に飛び出し積極的な守備をすることも必要です。
日本には、多くのヨーロッパのメソッドが出回っています。それはとても素晴らしいことです。
ただ、ヨーロッパのアイディアのみを学ぶだけでは、考え方が偏ってしまいます。知識や技術には多様性が必要です。日本人の勤勉さに、南米の野生的なプレーや技術が合わされば、向かうところ敵なしだと思いますよ。ヨーロッパでも南米でも、そのような選手を欲しがるクラブは山ほどあるでしょう。
今の日本人選手が必要としているのは、技術や理論よりも、南米人が持っている感情的な能力や感覚・直感・スピードです。
一見交わらないように見えるものが融合することで、選手の器やプレースタイルの幅は広がります。多様な考え方を取り入れることで、人間としても更にレベルアップができるのです。
To Be Continued……