TOPIC

HOME / TOPIC / GK育成スペシャリスト/エルナン・エラリオの実戦!ゴールキーパークリニックVol.6『南米とヨーロッパ、二つの地域で育つGKの違いとは』

GK育成スペシャリスト/エルナン・エラリオの実戦!ゴールキーパークリニックVol.6『南米とヨーロッパ、二つの地域で育つGKの違いとは』

前回の記事『優れたGKコーチの条件』にて、良いGKコーチの条件や選手の中に眠る才能の見つけ方、指導者が育成年代の選手に伝えるべきことなどの重要性について語ってくれたエルナン氏。

今回の記事では、南米とヨーロッパという、二つの大陸間に存在するGKの違いについて話を伺ってきた。

GKというポジションの価値や役割、トレーニング法、メンタルの保ち方、コーチがGKとどのように関わるべきかなど、GKにまつわる内容を月に1度程度でお届けいたします。

生年月日:1978年7月9日(44歳)
出身地:アルゼンチン

指導経歴(アルゼンチン1部リーグ):2005 ウラカン/2006-2010 べレス・サルフィエルド/2011-2013 ティグレ/2014-2018 CAバンフィエルド/2019-2021 ヒムナシア・デ・ラ・プラタ/インターナショナル・オブ・ゴールキーパー ディレクター


–今日は「ヨーロッパと南米のGKの違い」について話しを伺いたいです。両者にはどのような違いがあると考えますか?

まず、身体的な特徴が大きく違います。南米の選手は、骨格に恵まれている訳ではありませんが、スピードや反応の速さなどの、身体能力が優れている選手が多いです。

反対にヨーロッパのGKは、骨格的に優れており、身長が高く、手足が長い傾向にあります。

プレースタイルの観点から見ると、南米のGKはヨーロッパのGKよりも、積極的に前に出る選手が多いと思います。ボールに向かって行くような守備をするスタイルです。

反対にヨーロッパのGKはより保守的で、前に出てボールにアタックすることは少ないですね。ゴールの近くで技術力を活かしながらゴールマウスを守るスタイルです。

–南米の選手の特徴を聞いて、プレミアリーグのアストンヴィラでプレーする、アルゼンチン代表の正GKエミリアーノ・マルティネス(media CONNECTにも出演)が思い浮かびました

彼はゴールマウスに張り付いて守備をするのではなく、ボールに向かって行く攻撃的な守備をします。彼のスタイルは南米のGK を象徴していると思いますね。ボールに向かって守備をすることで、相手選手からシュートを打つまでに考える時間とシュートコースを奪っているのです。

【マルティネスのプレー集】

ヨーロッパのGKを挙げると、ベルギーのクルトワや、イタリアのドンナルンマでしょうか。彼らはゴールマウスからあまり動かず、相手が打ったシュートに反応する形でゴールを守ります。

–南米とヨーロッパで、このような違いが出るのは面白いですね。プレースタイルの違いは、大陸間で「サッカー」というスポーツの捉え方に違いがあるのでしょうか?

その通りです。南米の選手にとってのサッカーは、人生や愛、自己表現の一環です。サッカーをプレーするということが、自分の人生を捧げることを意味しますし、戦いに勝つことこそが人生の成功と密接に繋がっています。小さい頃から勝敗が人生を左右する環境にあるため、個性や情熱、アグレッシブさでヨーロッパの選手を上回っていると個人的には思います。

一方ヨーロッパでは、サッカーを論理的・戦術に重きを置きます。その戦術の中で発揮できる技術力を冷静に見極め、論理立てて相手チームを攻略する能力に長けていますね。スポーツを、学問的に捉えていると言えるでしょう。

–確かに、言われてみればそのように見えますね。しかも南米には、個性的なGKが多いようにも感じます。それはなぜだと思いますか?

個人的には、ヨーロッパよりも南米の方が、精神面や運動能力面で勝っていると思います。
私がそう考える理由は、南米の社会環境や育成環境にあります。

サッカーで飯を食べるために人生を賭けている若い選手が数多くいますし、家族を支えるためにプロを目指す子供もいます。
その選手の多くは、日々多大なプレッシャーと隣り合わせで生きていると思います。トップレベルのクラブに入団できたとしても、いいパフォーマンスを出せなければ、若い選手でも1年足らずで契約を切られてしまうんです。

若い頃からそういった環境で育った子は、プレッシャーを受けることに慣れています。

ヨーロッパではよりマニュアル化された育成が行われ、選手を育成するためのツールや知識が揃っています。より能力を高めるためにGKコーチは、無駄を削ぎ落とした指導法で育成していくのです。効果的な育成方法は多くのクラブでシェアされるので、平均値こそ高いが特徴も均一化された選手が育ちます。

反対に南米では、ヨーロッパほどのツールや知識は揃っていません。確立されたトレーニング法もヨーロッパには及びません。南米でGKコーチが一般的になったのは、ここ15年程ですが、ヨーロッパでは30年程もの歴史があるそうです。

南米は、まだまだ手探りで育成を行っている部分があるため、よりオリジナリティのある選手が育つのではないでしょうか。

–ヨーロッパと南米の良さをうまく兼ね備えたGKを育てることは可能だと思いますか?

可能だと思います。
お互いの大陸が自分たちの持っていないモノに気づき、補おうとさえすれば。
それを可能にしているのが「移民」です。移民たちは、私たちには持ち合わせていないものを持っています。

先ほど私が「南米の選手の方が優れている部分がある」といったのは、ヨーロッパよりも多くの人種の混じりがあり、そこで勝ち残ってきたDNAを持っているからです。

アルゼンチンを例に挙げると、ドイツ、イタリア、スペイン、アメリカ、イギリス、ロシアからの移民がたくさんいます。このような歴史的背景が、多種多様な文化や考え方を生みました。南米はスペイン人に侵略されていましたよね。
それでも祖先はスペイン人に対抗し、生き残った南米人とスペイン人の混血が、今日の南米を作りあげました。
そういった歴史が、私たちに勝者のメンタリティを植え付けたのです。

文化が混ざり合う過程では、異なる人種同士が他の文化から学び合い、よりよい解決策を生み出せるようになります。それは、GKを育成する過程での考え方にも当てはまるのです。

–文化の融合といった視点からプレースタイルを語るのは面白いですね。しかし日本は島国なので、大陸国ほど文化の融合が起きづらく、情報も制限されています。このような状況ですが何か良いアイディアはありますか?

多様なトレーニングを、偏見なしで行うことが有効だと思います。

ヨーロッパの練習法を取り入れることは素晴らしいことです。しかし選手のレベルや年齢を考慮し、チームに合ったトレーニングを行う必要がありますね。過去のインタビューでも話していますが、ゴールデンエイジと呼ばれる6歳から12歳までの間は、フィジカルよりもGKに必要な個人の基礎技術を高めることをお勧めします。
なぜなら、ゴールデンエイジと呼ばれる年代は技術的吸収が早いからです。

なるべく若い年齢のうちに高い技術を習得することができれば、戦術を学んだ際にそれらを活かしたプレーができます。

–日本のGKで知っている選手はいますか?また、日本のGKに持っている印象を教えてください

権田選手は素晴らしい選手だと思います。良い体格をしていますし、技術力が高くスピードもありますね。

日本のGKは、技術的にも戦術的にもしっかりトレーニングされている印象です。その点では、ヨーロッパのGKとよく似ています。

しかし、より勇気をもって決断すること、ゴールを防ぐための判断の速さを学ぶ余地があるように思います。常にゴールマウスの近くで守るのではなく、時には前に飛び出し積極的な守備をすることも必要です。

日本には、多くのヨーロッパのメソッドが出回っています。それはとても素晴らしいことです。
ただ、ヨーロッパのアイディアのみを学ぶだけでは、考え方が偏ってしまいます。知識や技術には多様性が必要です。日本人の勤勉さに、南米の野生的なプレーや技術が合わされば、向かうところ敵なしだと思いますよ。ヨーロッパでも南米でも、そのような選手を欲しがるクラブは山ほどあるでしょう。

今の日本人選手が必要としているのは、技術や理論よりも、南米人が持っている感情的な能力や感覚・直感・スピードです。

一見交わらないように見えるものが融合することで、選手の器やプレースタイルの幅は広がります。多様な考え方を取り入れることで、人間としても更にレベルアップができるのです。

To Be Continued……

RELATED POST