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WOWOW代表取締役 社長執行役員 / 田中晃・独占インタビューvol.2『パラスポーツ普及の真のゴール』

テレビ業界で、「スポーツ中継の天才」と評されてきた人物がいる。WOWOW代表取締役 社長執行役員、田中晃(たなか・あきら)氏だ。

独自の中継哲学に基づき手腕を発揮、ディレクターとして、プロデューサーとして、スポーツ文化の発展に寄与してきた。また、近年は、日本車いすバスケットボール連盟の理事を務めるなど、パラスポーツに対しても情熱を注いでいる。

メディアはパラスポーツにどう向き合うべきか?パラスポーツが抱える課題は何か?共生社会とは何か?田中氏に尋ねた。

こちらは、全3回にわたるインタビューの2回目となります。

1954年、長野県生まれ。
1979年、早稲田大学第一文学部卒業、日本テレビ入社。
箱根駅伝初の生中継、世界陸上1991年東京大会の国際映像配信その他、数多くのスポーツ中継に携わる。
2005年、スカパー!に移籍、2007年からJリーグのJ1J2全試合放送を実現、パラスポーツの放送にも力を注いだ。2015年にWOWOW代表取締役 社長となり、2020年から同社代表取締役 社長執行役員。日本車いすバスケットボール連盟理事も務める。

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–東京2020パラリンピック競技大会開催の意義を、どのように感じていらっしゃいますか?

それなりに多くの人が、パラリンピックを見てくれました。

とにかく見てもらう、接する機会を今まで以上に増やすということは、とても重要だと思うんです。それがパラリンピックをやったレガシー、意義だと思います。

また、東京オリパラのコロナ禍の逆風の中でも開催されましたが、スポーツは不要不急ではない、生きるために必要なものなんだと僕は信じています。コロナウイルスの蔓延にワクチンが必要なのと同じように、人が生きていく上で、スポーツは必要なものなんだ。

だから、障がいがある人も、等しくスポーツをやる環境というのが、とても大切だと思うんです。それは健常だった人も、年老いて動けなくなって、それでもスポーツを楽しむという社会と同じだからです。

–東京2020は、「共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」ことを目標としていました。大会を終えて、このことの進展について、どのようにお感じでしょうか?

東京パラがとてもいい結果を残したが故に、多くの人が興味を持つようになりました。共生社会を作ることに対し、自治体も行政も、あるいは地元の企業も、今までとは比較にならないぐらい、前向きになっています。

東京大会では、トップアスリート達が本当に頑張った。今度は、パラの団体にいる関係者が、あるいはその周辺にいるメディアが汗を流さなきゃいけない時ですよね。

東京パラで終わりではなく、東京パラがスタートで、これから20年30年かけて日本の社会をダイバーシティ&インクルージョンの社会に変えていく、具体的なアクションを至る所でやるということです。

–どういった人、団体が、中心的な担い手となるのでしょうか?

パラスポーツは学校体育スポーツではないので、中体連や高体連、あるいは協会などの下、中央集権で何かをやっていきましょうという団体ではありません。

でも、草の根がとても強いんです。

東京パラ開催が決まる前から、障がい者スポーツに前向きに取り組み、地元の障がいをもった子供達を応援している団体が、日本中にいっぱいであるわけですよ。だから、そういう人たちが中心になる。

–どこを目指すのか、方向性が問われるように思います。

パラスポーツで、それぞれの競技が普及して、競技人口が増えて、そのスポーツが盛んになる、スポンサーもついてくる……果たして、それが目指しているゴールだろうか?違いますよね。

その競技が普及することによって、社会が多様な価値、多様な肉体、多様な存在の命を認めあう社会になり、どれにも価値があるということが共有される。そういうダイバーシティという集団社会になるということを、各選手各団体がみんな目指している。

日本車いすバスケットボール連盟の中に入って、より痛感しています。

テレビやメディアは、何のために報道しているのか?「その先の社会を目指しているんだ」ということが、明確になければいけないことです。

–連盟が行っている、具体的な活動があれば、教えてください。

中長期計画策定委員会というものを組織し、活動しています。

「未来プロジェクト」というものを立ち上げ、意欲のある、これからの車いすバスケの10年を担っていく全国の人材が、真剣に議論しています。

その議論を聞いていると、彼らが、地域の障がいのある子供達を本当にサポートしたいと思っているのがわかります。すごく強いんですよ、気持ちが。これは健常のスポーツでJリーグを目指しているクラブとか、陸上をやっている選手達からは、そんなに感じることはないですよ。

健常のスポーツは、本当に自分のタイムを100分の1秒でも上げるとか、このスポーツを普及させるとか、もちろんそれは素晴らしいんだけど、同時進行で地域の子供達に夢と希望を提供しようと考えて実際に活動しようということには、なかなかならないですよね。

–どういった内容の議論をしているのでしょうか?

全国10ブロックに、この先の10年を担う人を出してくださいと伝えます。その人たちを中心にヒアリングをして、色んな問題点をあげていき、それを整理して行く。

我々はどう変わっていくのかではなくて、10年後に車いすバスケットはどうありたいかを議論し、理念を掲げ、アクションプランを作っています。

1つは、日本のパラスポーツの中で、世界のパラスポーツの中でどう成長し輝きたいか。もう1つは、社会の中で、地域の子供達にとって、どういう存在でありたいか、地域の自治体や教育団体にとってどういう存在でありたいか、あるいは企業にとってどういう存在でありたいか。

つまり、競技の成長のためにどうありたいかということと、社会のためにどうありたいかということとを分けて議論をしています。

–組織的な部分で、パラスポーツや車いすバスケットボールが持つ利点、強みがあれば、教えてください

車いすバスケットは、全国に80以上のクラブがあるんです。これだけ全国にクラブ組織としてまとまりがあるというパラスポーツ団体は、車いすバスケット以外にはない。

それぞれのクラブが、各エリアで地域の子供達に貢献するということが、具体的なアクションとしてネットワークできている。とても大きな力になるということですね。

東京オリパラみたいな大きな大会が終わると、体育スポーツの延長にあるスポーツ界は、上からトップダウンで行動していく、いわゆる中央集権型に組織をより強くしていく、そこにお金を流していくという組織化を、普通しようとするじゃないですか。

ところがパラスポーツは、元からそういう組織ではないので、全国に散らばっているそういった競技クラブ、あるいは全国自治体にある障がい者スポーツ協会、あるいはその周辺にいるNGO、NPO、そういう人たちの活動をネットワークする。

ネットワークすることによって、目的である、ダイバーシティとインクルージョンの世界が作られていく。中央集権の動きで作るのとは、違うアプローチなんだということを、僕はずっと思っているんですね。

だから、スポーツ庁も、パラスポーツを考える時に、あるいはJPSA(Japanese Para Sports Association=公益財団法人日本パラスポーツ協会)も、パラスポーツが目指しているゴールを考える時に、地域のネットワークがすごく重要になると思いますね。

–障がい者のスポーツ参加機会も、課題の1つかと思います

障がいを持つ子の保護者がパラリンピックを見て「いいね、自分の子供も閉じこもっているんじゃなくて、もっと普通に、社会に今まで以上に出していこう」となった時に、地元にパラスポーツがある。

パラスポーツも、選択肢としてバスケットボールもある、ゴールボールもある、ブラインドサッカーもある、ボッチャもある。体が動けなくなった年配の世代も、そこに参加してくる。

そこに選択肢として、音楽やアートも加わってきたらもっと素晴らしいですね。

–世間がもっと障がい者やパラスポーツに関心を向けるようになること。近い目標であるのと同時に、遠い目標でもあるとも思います

(変化には)時間かかると思いますよ、当たり前ですけど。最短でも30年先でしょうね。

30年先の日本社会を変えるんだって言った時に、今50歳の人が80歳になる。誰に対して発信していくのが一番いいのか。例えば、今10歳の子供にそのことを伝えて、その10歳の子供達がいろんなことを感じながら成長していって、10年後、選挙にも投票し、20年後、地域活動もし、30年後、社会の中心となって働く。

だから今現在の子供達と若い人にどれだけ発信して、子供達と若い人がインスパイアされていくかということがすごく重要だと、僕は言い続けています。

–多くの組織で中心となっているのは、もっと高年齢の世代です

東京パラリンピックが終わって「パラリンピック凄い良かった、これから活動しなきゃいけないね」と思っている50歳や40歳の人、結構たくさんいると思います。だけどね、それは長く続かないですよ、30年も。

大人達の思い出作りは思い出作りでいいと思います。しかし、東京オリパラを、大人達の思い出作りで終わらせてはいけない、これは切に思っていますね。

To Be Continued…(vol.3は2022/2/20(日)投稿予定)

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